76 〈桜の花のちりける見てよみける〉
素性法師
花ちらす風のやどりはたれかしる我にをしへよ行きて恨みむ
【 桜の花が散ったのを見て詠んだ歌
花を散らす風の居場所はいったい誰が知っているのか
私に教えてくれ、行って恨み言をいおう
※桜 の 花 の[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞+格助詞(主格)]
ちり ける[動詞(ラ四)連用形+過去の助動詞 けり 連体形]
→桜の花が散った(のを)
※見 て よみ ける[動詞(マ上一)連用形+接続助詞
+動詞(マ四)連用形+過去の助動詞 けり 連体形]
→見て詠んだ(歌)
▼
※花 ちらす[名詞+動詞(サ四)連体形]
→花を散らす
※風 の[名詞+格助詞(連体修飾)]
やどり は[名詞+係助詞(主題提示)]
→風の居場所は
※たれ か しる[代名詞+係助詞+動詞(ラ四)連体形]
→いったい誰が知っているのか
※我 に[代名詞+格助詞(受け手:間接目的語)]
をしへよ[動詞(ハ下二)命令形]
→私に教えてくれ
※行き て[動詞(カ四)連用形+接続助詞]
恨み む[動詞(マ上二)未然形+意志の助動詞 終止形]
→行って恨もう
◯動詞の上二段活用(現代語とだいぶ違う)
うらみ(ず)
うらみ(けり・て)
うらむ
うらむる(とき)
うらむれ(ば)
うらめよ 】
77 〈うりんゐんにて桜の花をよめる〉
そうく法師
いざさくら我もちりなむひとさかりありなば人にうきめみえなむ
【 雲林院で桜の花を詠んだ歌
さあ桜よ、私も散ってしまおう。
(わが人生に)ひとさかりあったならば、
(これからは)人には、憂き目にあっているように見えてしまうだろうから
※うりんゐん に て[名詞+格助詞+接続助詞]
→雲林院で
※桜 の 花 を[名詞++格助詞(連体修飾)+名詞+格助詞(目的語)]
よめ る[動詞(マ四)已然形+完了・存続の助動詞 り 連体形]
→桜の花を詠んだ(歌)
※いざ さくら[感動詞+名詞]
→さあ桜よ、
▼
※我 も[代名詞+係助詞(添加)]
ちり な む[動詞(ラ四)連用形+完了・強意の助動詞 ぬ 未然形
+意志の助動詞 む 終止形]
→私も散ってしまおう
※ひとさかり[名詞]
→ひとさかり
※あり な ば[動詞(ラ変)連用形+完了の助動詞 ぬ 未然形
+接続助詞(仮定条件)]
→あったならば
人 に[名詞+格助詞(対象・受け手)]
→人には
※うきめ[名詞]
みえ な む[動詞(ヤ下二)連用形+強意の助動詞 ぬ 未然形
+推量の助動詞 む 終止形]
→憂き目にあっているように見えてしまうだろう】
78 〈あひしれりける人のまうできて、かへりにける後に、
よみて花にさしてつかはしける〉
貫之
ひとめみし君もやくると桜花けふはまちみてちらばちらなむ
【 互いに親しくなっていた人が訪ねてきて、帰ってしまった後に、詠んで送った歌
(あのとき)一目見た君がもしや来るのではと、桜の花よ、
今日は待ってみて、散るならば、いっそ散ってしまえ。
(と思っていたら、訪ねてきてくれてうれしかった)
※あひ しれ り ける [接頭語+動詞(ラ四)已然形
+存続の助動詞 り 連用形+過去の助動詞 けり 連体形]
→互いに親しくなっていた
※ひと の[名詞+格助詞]
まうで きて[動詞(ダ行下二)連用形+接続助詞(連用形接続)]
→人がやって来て
※かへり に ける[動詞(ラ四)連用形+完了の助動詞 ぬ 連用形
+過去の助動詞 けり 連体形]
後 に[名詞+格助詞]
→帰ってしまった後で
※よみて[動詞(マ四)連用形+接続助詞]
→詠んで
※花 に さし て[名詞+格助詞+動詞(サ四)連用形+接続助詞]
→花に挿して
※つかはし ける[動詞(サ四)連用形+過去の助動詞 けり 連体形]
→お送りした
▼
※ひとめ み し[名詞+動詞(マ上一)連用形+過去の助動詞 き 連体形]
→一目見た
※君 も や[名詞+係助詞+係助詞(疑問・反語)]
くる と[動詞(カ変)連体形+格助詞(引用)]
→君もくるだろうかと、
※桜花[名詞]
※けふ は[名詞+係助詞]
まち み て[動詞(タ四)連用形
+補助動詞(マ上一:試行)連用形+接続助詞]
→今日は試しに待ってみて
※ちら ば[動詞(ラ四)未然形+接続助詞(仮定条件)]
ちら な む[動詞(ラ四)未然形+強意の助動詞 ぬ 未然形
+意志の助動詞 む 終止形]
→もし散るならばいっそ散ってしまえ】
79 〈山の桜をみてよめる〉
春霞なにかくすらむさくら花ちるまをだにもみるべき物を
【 山の桜を見て詠んだ歌
春霞よ、なにを隠しているのだろうか、
せめて桜の花が散る間だけでも
見るべきものなのに
※山 の 桜 を[名詞+格助詞(連体修飾)
+名詞+格助詞(目的語)]
※み て よめ る[動詞(マ上一)連用形+接続助詞
+動詞(マ四)已然形+助動詞 り 連体形(完了)]
→見て詠んだ(歌)
▼
※春霞[はるがすみ。名詞]
→春の霞よ、
※なに かくす らむ[代名詞(疑問)+動詞(サ四)終止形
+助動詞 らむ 終止形(現在推量)]
→何を隠しているのだろうか。
※さくら花[名詞]
→桜の花が
※ちる ま を[動詞(ラ四)連体形+名詞+格助詞(時間)]
だに も[副助詞(せめて…だけでも)+係助詞(強意)]
→せめて散る間だけでも
※みる べき[動詞(マ上一)終止形+助動詞 べし 連体形(当然)]
物 を[名詞+接続助詞(逆接)]
→見るべきものなのに】
80 〈心ちそこなひてわづらひける時に、風にあたらじとて、
おろしこめてのみ侍りけるあひだに、
をれる桜のちりがたになれりけるをみてよめる〉
藤原因香朝臣
たれこめて春のゆくへもしらぬまにまちし桜もうつろひにけり
【 体調を崩して病気になった時に、風に当たるまいとして、
戸を閉めこもってばかりいた間に、(部屋に)折って飾ってある桜が
なかなか散らない状態になっていたのを見て詠んだ歌
戸を閉めこもって、春がどこへ行くのかもわからないうちに、
待ちわびていた(外の)桜も、散ってしまったことだなあ。
※心ちそこなひ て[動詞(ハ四)連用形+接続助詞(順接)]
わづらひ ける[動詞(ハ四)連用形+助動詞 けり 連体形(過去)]
時に[名詞+格助詞]
→体調を崩して病気になった時に、
※風 に[名詞+格助詞]
あたら じ[動詞(ラ四)未然形+助動詞 じ 終止形(打消意志)]
とて[接続助詞(理由)]
→風に当たるまいとして
※おろしこめ て のみ[動詞(マ下二)連用形+接続助詞+副助詞(限定)]
侍り ける[動詞(ラ変)連用(丁寧、状態の継続)+助動詞(けり)連体形]
あひだ に[名詞+格助詞]
→(戸を)閉め切ってばかりいた間に
※をれ る[動詞(ラ四)已然形+助動詞 り 連体形(存続)]
桜 の[名詞+格助詞]
→折って飾ってある桜が
※ちりがた に[名詞+格助詞]
なれ り ける[動詞(ラ四)已然形+助動詞 り 終止形(存続。結果状態の持続)
+助動詞 けり 連体形(過去)]
→なかなか散らない状態になっていたのを
※みてよめる[動詞(マ上一)連用形+接続助詞+動詞(マ四)連体形]
→見て詠んだ(歌)
▼
※たれこめ て[動詞(マ下二)連用形+接続助詞]
→(戸を)閉めこもって
※春 の ゆくへ も[名詞+格助詞+名詞+係助詞(強調)]
しら ぬ ま に[動詞(ラ四)未然形+助動詞 ず 連体形(打消)
+名詞+格助詞]
→春がどこへ行くのかもわからないうちに
※まち し 桜 も[動詞(タ四)連用形+助動詞 き 連体形(過去)
+名詞+係助詞]
→待ちわびていた桜も
※うつろひ に けり[動詞(ハ四)連用形+助動詞 ぬ 連用形(完了)
+助動詞 けり 終止形(詠嘆)]
→散ってしまったことだなあ】
※個人的な暗唱用に。本文のテキストは、西本経一(にししたきょういち)校註『日本古典全書 古今和歌集』(毎日新聞社、1948年9月)による。解釈は今はおもに、久曽神昇(きゅうそじんひたく)全訳注『古今和歌集(一)』(講談社学術文庫、1979年9月)と、小沢正夫(おざわまさお)・松田茂穂(まつだしげほ)校注・訳『完訳 日本の古典9 古今和歌集』(小学館、1983年4月)を参照している。
※ひたすら暗唱は飽きて来ました。どうせ読むのなら、やはり正確に意味がわかったほうが楽しい。とはいえ、1000年に及ぶ解釈の流れを踏まえている時間的な余裕はないので、まっさらな気持ちで、古典文法の定石通りに読んだらどう解釈できるのか、記していくことにしました。テキストと文法のみでどこまで読めるのか興味がわきました。
※ひたすら暗唱は飽きて来ました。どうせ読むのなら、やはり正確に意味がわかったほうが楽しい。とはいえ、1000年に及ぶ解釈の流れを踏まえている時間的な余裕はないので、まっさらな気持ちで、古典文法の定石通りに読んだらどう解釈できるのか、記していくことにしました。テキストと文法のみでどこまで読めるのか興味がわきました。
手元にある高校生向けの古典文法の教科書は、①浜本純逸(監修)・黒川行信(編著)『九訂版 読解をたいせつにする体系 古典文法』(数研出版、2020年11月。初版は1990年2月)と、②井島正博(編著)・伊藤博美・中島ひとみ(著)『詳説 古典文法』(筑摩書房、2012年12月)の2冊。同じく学習者向けの古語辞典は、③中村幸弘(編)『ベネッセ 全訳 コンパクト古語辞典』(1999年11月)と、④林巨樹・安藤千鶴子(編)『新 全訳 古語辞典』(大修館書店、2017年1月)の2冊。文法解析の内容は、ChatCPT と Copilot の AI でチェックしました。AIによる文法分析は大変便利なものですが、同じAIでも聞き方や、聞く日時によって微妙に違ってくるので、注意が必要。最終的な文責は栗木が負う。とりあえず先に進めることを重視し、慣れてきたら前に戻って推敲するつもりです。