81〈東宮の雅院にて櫻の花のみかは水にちりて流れけるをみてよめる
菅野高世
枝よりもあだにちりにし花なればおちても水のあわとこそなれ
【 東宮の雅院で、
桜の花が御溝水(みかわみず。庭に造った水の流れ)に
散って流れていたのを見て詠んだ歌
菅野高世(すがののたかよ)
枝からさえ、はかなく散ってしまった花なのだから、
落ちても水の泡となって(消えていく)のだ
※東宮 の 雅院 にて[名詞+格助詞+名詞+格助詞]
→東宮の雅院で
※桜 の 花 の[名詞+格助詞+名詞+格助詞(主格)]
→桜の花が
※みかは水 に[名詞+格助詞]
→御溝水(庭に造った水の流れ)に
※ちり て [動詞(ラ四)連用形+接続助詞]
→散って
※流れ ける を[動詞(ラ下二)連用形+助動詞 けり 連体形(過去)+格助詞]
→流れていたのを
※みてよめ る[動詞(マ上一)連用形+接続助詞+動詞(マ四)已然形
+助動詞 り 連体形(完了)]
→見て詠んだ(歌)
▼
※枝 より も[名詞+格助詞(起点)+係助詞(強調)]
→枝からさえ
※あだに ちり に し[形容動詞(ナリ)連用形+動詞(ラ四)連用形
+助動詞 ぬ 連用形(完了)+助動詞 き 連体形(過去)]
→はかなく散ってしまった
※花 なれ ば[名詞+助動詞 なり 已然形(断定)+接続助詞(理由)]
→花であるので
※おち て も[動詞(タ上二)連用形+接続助詞+係助詞(逆接条件)]
→落ちても
※水 の[名詞+格助詞(連体修飾)]
→水の
※あわ と こそ なれ[名詞+格助詞+係助詞(強意)
+動詞(ラ四)已然形〈係り結び〉]
→泡となるのだ】
82〈桜の花のちりけるをよみける
貫之
ことならばさかずやはあらぬ桜花みる我さへにしづ心なし
【 桜の花が散ったことを詠んだ歌
貫之(つらゆき)
(散ったという)ことならば、(いずれまた)
咲かないことはないのだろう(いや、きっと咲くはずだ)
桜の花を見る私までも、落ちついた心ではいられない
※桜 の 花 の[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞++格助詞(主格)]
→桜の花が
※ちり ける を[動詞(ラ四)連用形+助動詞 けり 連体形(過去)+格助詞(対象)]
→散ったことを
※よみ ける[動詞(マ四)連用形+助動詞 けり連体形(過去)]
→詠んだ(歌)
▼
※こと なら ば[名詞+助動詞 なり 未然形(断定)+接続助詞]
→(散ったという)ことならば、
※さか ず やは[動詞(カ四)未然形+助動詞 ず 連用形(打消)+係助詞(反語)]
あら ぬ[動詞(ラ変)未然形+助動詞 ず 連体形(打消)]
→咲かないことはないのだろう(いや、咲く)
※桜花[名詞]
→桜の花
※見る 我 さへ に[動詞(マ上一)連体形+代名詞
+副助詞(添加)+格助詞]
→見る私までも
※しづ心 なし[名詞+形容詞(シク)終止形]
→落ちついた心でいられない】
83〈桜のごとくちる物はなしと人のいひければよめる
桜花とくちりぬともおもほえず人の心ぞ風も吹きあへぬ
【 桜のように散るものはないと人が言ったので詠んだ(歌)
桜の花が
早く散ってしまうとは思われない。
人の心こそ
風でさえ吹き散らしきれない(うちに変わってしまう)
※桜 の ごとく[名詞+格助詞(連体修飾)+助動詞 ごとし 連用形(比況)]
→桜のように
※ちる物は[動詞(ラ四)連体形+名詞+係助詞(取り立て)]
なし と[形容詞(ク活用)終止形+格助詞(引用)]
→散る物はないと
※人の[名詞+格助詞(主格)]
いひ けれ ば[動詞(ハ四)連用形+助動詞 けり 已然形(過去)
+接続助詞(順接確定条件)]
→人が言ったので
※よめ る[動詞(マ四)已然形+助動詞 り 連体形(存続・完了)]
→詠んだ(歌)
▼
※桜花[名詞]→桜の花が
※とく ちり ぬ とも[形容詞(ク)連用形+動詞(ラ四)連用形
助動詞 ぬ 終止形(完了)+接続助詞(逆接仮定)]
→早く散ってしまうとは
※おもほえ ず[動詞(ヤ下二)未然形+助動詞 ず 終止形(打消)]
→思われない
※人 の 心 ぞ[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞+係助詞(強意。係り結び)]
→人の心こそ
※風 も[名詞+係助詞(添加・強調)]→風でさえ
※吹き あへ ぬ[動詞(カ四)連用形+動詞(ハ下二)未然形
+助動詞 ず 連体形(打消)]
→吹き散らしきれない】
84〈桜の花のちるをよめる
紀友則
久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花のちるらむ
【 桜の花が散るのを詠んだ(歌)
紀友則(きのとものり)
光のどかな春の日に
心落ちつかず
どうして花が散っているのだろうか
※桜 の 花 の[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞++格助詞(主格)]
→桜の花が
※ちる を[動詞(ラ四)連体形+格助詞(対象)]
→散るのを
※よめ る[動詞(マ四)已然形+助動詞 り 連体形(存続・完了)]
→詠んだ(歌)
▼
※久方の[枕詞](「ひかり」にかかる。通常訳さない)
※ひかり のどけき[名詞+形容詞(ク)連体形]
→光 のどかな
※春 の 日 に[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞+格助詞(時)]
→春の日に
※しづ心なく[形容詞(ク)連用形]
→心落ちつかず
※花 の 散る らむ[名詞+格助詞(主格)+動詞(ラ四)終止形
+助動詞 らむ 終止形(現在の原因推量)]
→どうして花が散っているのだろうか】★超有名!
85〈春宮のたちはきの陣にて、桜の花のちるをよめる
藤原好風
春風は花のあたりをよきてふけ心づからやうつろふとみむ
【 春宮の帯刀の陣で、桜の花が散るのを詠んだ(歌)
藤原好風(ふじわらのよしかぜ)
春の風は花のあたりを避けて吹いてくれ
(桜の花が)自分から散るのかどうかと、見届けてみよう
※春宮 の[名詞+格助詞(連体修飾)]
たちはき の[名詞+格助詞(連体修飾)]
陣 にて[名詞+格助詞(場所)]
→春宮の帯刀の陣で、
※桜の花の[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞+格助詞(主格)]
ちる を[動詞(ラ四)連体形+格助詞]
よめ る[動詞(マ四)已然形+助動詞 り 連体形(完了)]
→桜の花が散るのを詠んだ
▼
※春風 は[名詞+係助詞(提示)]
→春の風は
※花のあたりを[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞+格助詞]
→花のあたりを
※よきてふけ[動詞(カ四)連用形+接続助詞+動詞(カ四)命令形]
→避けて吹いてくれ
※心づから や[副詞+係助詞(疑問。係り結び→うつろふ)]
うつろふ と[動詞(ハ四)連体形+格助詞(引用)]
み む[動詞(マ上一)未然形+助動詞 む 終止形(意志)]
→自分から散るのかどうかと、見届けてみよう】
※個人的な暗唱用に。本文のテキストは、西本経一(にしした きょういち)校註『日本古典全書 古今和歌集』(毎日新聞社、1948年9月)による。解釈は今はおもに、久曽神昇(きゅうそじん ひたく)全訳注『古今和歌集(一)』(講談社学術文庫、1979年9月)と、小沢正夫(おざわ まさお)・松田茂穂(まつだ しげほ)校注・訳『完訳 日本の古典9 古今和歌集』(小学館、1983年4月)を参照している。
※ひたすら暗唱は飽きて来ました。どうせ読むのなら、やはり正確に意味がわかったほうが楽しい。とはいえ、1000年に及ぶ解釈の流れを踏まえる時間的な余裕はないので、まっさらな気持ちで、古典文法の定石通りに読んだらどう解釈できるのか、記していくことにしました。テキストと文法のみでどこまで読めるのか興味がわきました。
※ひたすら暗唱は飽きて来ました。どうせ読むのなら、やはり正確に意味がわかったほうが楽しい。とはいえ、1000年に及ぶ解釈の流れを踏まえる時間的な余裕はないので、まっさらな気持ちで、古典文法の定石通りに読んだらどう解釈できるのか、記していくことにしました。テキストと文法のみでどこまで読めるのか興味がわきました。
手元にある高校生向けの古典文法の教科書は、①浜本純逸(監修)・黒川行信(編著)『九訂版 読解をたいせつにする体系 古典文法』(数研出版、2020年11月。初版は1990年2月)と、②井島正博(編著)・伊藤博美・中島ひとみ(著)『詳説 古典文法』(筑摩書房、2012年12月)の2冊。また、学習者向けの古語辞典は、③中村幸弘(編)『ベネッセ 全訳 コンパクト古語辞典』(1999年11月)と、④林巨樹・安藤千鶴子(編)『新 全訳 古語辞典』(大修館書店、2017年1月)の2冊。文法解析の内容は、ChatGPT と Copilot の AI でチェックしました。AIによる文法分析は大変便利なものですが、同じAIでも聞き方や、聞く日時によって微妙に違ってくるので、注意が必要。最終的な文責は栗木が負う。とりあえず先に進めることを重視し、慣れてきたら前に戻って推敲するつもりです。