69 〈題しらず〉
読人しらず
春霞たなびく山の桜花うつろはむとや色かはりゆく
【春霞がたなびいている山の桜の花は、
色あせてしまうのだろうか、だんだん色が変わっていく。
※春霞[名詞]春に立つかすみ
たなびく[動詞(カ行四段)連体形]
山の[名詞 + 格助詞 の]→連体修飾(山にある)
桜花[名詞]
※うつろは む[動詞(ハ行四段)未然形 + 推量の助動詞 む 連体形]
とや[格助詞 と + 係助詞 や]→ 疑問的詠嘆 ~ということだろうか
※色 かはり ゆく[名詞+動詞(ラ行四段)連用形+動詞(カ行四段)終止形]
→色がしだいに変わっていく
★係助詞「や」が用いられているが、「とや」のかたちでは、「や」は直前の「うつろはむ」に作用する傾向が強く、文全体に及ぶ典型的な係り結び(文末=連体形)とは見なしにくい。したがって、文末「ゆく」は連体形と同形ではあるが、終止形とするのが自然と考えた。】
70
まてといふに散らでしとまる物ならばなにを桜に思ひまさまし
【待てというと、散らないで留まるものならば、
何を桜に対して思い募らせようか。(いや、募らせはしない。)
※まて[動詞(タ行四段)命令形]
と いふ に[格助詞(引用)+動詞(ハ行四段)連体形+接続助詞]
→待てというと、
※散ら で[動詞(ラ行四段)未然形+接続助詞]
し[副助詞]添え詞。語勢を整える
とまる[動詞(ラ行四段)連体形]
→散らないで留まる
※物ならば[名詞+断定の助動詞 なり 未然形 + 接続助詞(仮定条件)]
※なにを桜に[代名詞+格助詞+名詞+格助詞]
→何を桜に対して
※思ひまさまし[動詞(ハ・四)連用+動詞(サ・四)未然+助動詞(反実仮想)]
→思い募らせようか、いや、募らせはしない。】
71
のこりなくちるぞめでたき桜花有りて世の中はてのうければ
【残りなく散る桜の花こそ見事だ。
その花が存在する人の世の、
果て(死ぬまでのごたごた)はつらいもの。
だからこそ、残りなく散る桜はいよいよ見事なのだ。
※のこり なく[動詞(ラ・四)連用形+形容詞(ク活用)連用形]
※ちる ぞ[動詞(ラ・四)終止形+係助詞(強意・詠嘆)]
めでたき[形容詞(ク活用)連体形]
→ 散ることこそ見事な
※桜花[名詞]
有り て[動詞(ラ変)連用形+接続助詞]
→桜の花があって
※世の中[名詞]
はて の[名詞+格助詞(連体修飾)]
うけれ ば[ 形容詞(シク活用)已然形+接続助詞 (原因・結果)]
→世の中の果てはつらいものだから。】
72
このさとに旅ねしぬべし桜花ちりのまがひにいへぢ忘れて
【この里で旅寝してしまいそうだ、
桜の花が散りみだれるさまに家路を忘れて
※このさとに[連体詞+名詞+格助詞]
→この里で
※旅ね し ぬ べし[名詞+動詞(サ変)連用形+完了の助動詞 ぬ 終止形
+推量の助動詞 べし 終止形]
→旅寝してしまいそうだ
※桜花[名詞]
→桜の花が
※ちり の まがひ に[動詞(ラ四)連用形+格助詞+名詞+格助詞]
→散りみだれるさまに
※いへぢ 忘れ て[名詞+動詞(ラ下二)連用形+接続助詞]
→家路を忘れて】
73
空蝉の世にもにたるか花ざくらさくとみしまにかつ散りにけり
【はかないこの世にも似ているだろうか、花桜よ。
咲いたと見ているうちにすぐに散ってしまったなあ。
※空蝉 の[名詞+格助詞]
→はかないこの世の
※世 に も[名詞+格助詞+係助詞]
に たる か[動詞(ナ上一)連用形+存続の助動詞 たり 連体形
+係助詞(疑問)]
→世にも似ているのだろうか
※花ざくら[名詞]
※さく と[動詞(カ四)終止形+接続助詞(順接確定条件・同時)]
み し ま に[動詞(ラ上一)連用形+過去の助動詞 き 連体形
+名詞+格助詞(時間)]
→咲いたと見ている間に
※かつ[副詞]
散り に けり[動詞[ラ四]連用形+完了の助動詞 ぬ 連用形
+詠嘆・過去の助動詞 けり 終止形]
→すぐに散ってしまったことだなあ】
74 〈僧正遍昭によみておくりける〉
惟喬親王
桜花ちらばちらなむ散らずとてふるさと人のきてもみなくに
75 〈雲林院にて桜の花のちりけるを見てよめる〉
そうく法師
桜ちる花の所は春ながら雪ぞふりつつきえがてにする
76 〈桜の花のちりける見てよみける〉
素性法師
花ちらす風のやどりはたれかしる我にをしへよ行きて恨みむ
77 〈うりんゐんにて桜の花をよめる〉
そうく法師
いざさくら我もちりなむひとさかりありなば人にうきめみえなむ
78 〈あひしれりける人のまうできて、かへりにける後に、
よみて花にさしてつかはしける〉
貫之
ひとめみし君もやくると桜花けふはまちみてちらばちらなむ
79 〈山の桜をみてよめる〉
春霞なにかくすらむさくら花ちるまをだにもみるべき物を
80 〈心ちそこなひてわづらひける時に、風にあたらじとて、
おろしこめてのみ侍りけるあひだに、
をれる桜のちりがたになれりけるをみてよめる〉
藤原因香朝臣
たれこめて春のゆくへもしらぬまにまちし桜もうつろひにけり
※個人的な暗唱用に。本文のテキストは、西本経一(にししたきょういち)校註『日本古典全書 古今和歌集』(毎日新聞社、1948年9月)による。解釈は今はおもに、久曽神昇(きゅうそじんひたく)全訳注『古今和歌集(一)』(講談社学術文庫、1979年9月)と、小沢正夫(おざわまさお)・松田茂穂(まつだしげほ)校注・訳『完訳 日本の古典9 古今和歌集』(小学館、1983年4月)を参照している。
※ひたすら暗唱はだんだん面白くなくなって来ました。この際、古典文法の復習をかねて、文法の力のみを信じ、定石通りに読んだらどう解釈できるのかを【……】で記していくことにしました。いずれ『高明集』を正確に読むための基礎力を養いたい。