2015年10月10日土曜日

【読了】Janet Hardy-Gould, Chocolate (OBW Stage 2)

やさしい英語の本、通算115冊目は、

オックスフォード・ブックワームズの
ステージ2(700語レベル)の23冊目として、

英語学習者向けに
やさしい英語の本を書き下ろされている
ジャネット・ハーディ=グールド氏による

お菓子の文化史
『チョコレート』を読みました。

一つ前のレベルで読み忘れていた1冊です。


Janet Hardy-Gould
Chocolate

〔Oxford Bookwarms Stage 2〕
(c) Oxford University Press 2011
6,591語

甘い物は、
こだわらない程度に好きです。

ふだんは、
お菓子の本を読むほど興味はないのですが、

何だか美味しそうと思い、
手に取って読んでみることにしました。

実学系の本は、
低めのレベルでも知らない単語がたくさん出て来るので、
興味がないとかなり読みにくいのですが、

語彙力アップのためにも、
面白そうなのはできるだけ読んでいこうと思っています。

チョコレートについても、
ふつうの辞書には載っていない単語が多いので、
インターネットで検索しながら読んでいきました。

さすがに
インターネットで調べれば、
どれもすぐに出て来ました。

チョコレートについて何も知らない私にも、
楽しみながら読み進めることができました。


  ***

日本語で似たような入門書はないか探し、
新書を1冊手に入れました。


武田尚子(たけだなおこ)著
『チョコレートの世界史 ― 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石』
(中公新書、2010年12月)

やさしい英語のをより詳しく難しくしてあり、
素人には必要十分な情報が含まれています。

本格的に、
チョコレートについて学ぼうと思う人にとって、
有用な入門書だと思いますが、

ざっとおおまかに知りたい場合は、
少しむつかしいようにも感じました。

そこでもう1冊、
最近注文したところです。


蜂谷巌著
『チョコレートの科学 ―苦くて甘い「神の恵み」』
(講談社ブルーバックス、1992年10月)

読んでみて、ほどよい内容でしたらまた報告します。


※通算115冊目。計931,307語。

2015年10月8日木曜日

『古今和歌集』巻第十一 戀歌一 その2(499-528)

『古今和歌集』の恋歌一 その2として、
次の30首(499-528)を読みました。

本文は、
 西下経一校注
 『日本古典全書 古今和歌集』
 (朝日新聞社、1948年9月)
に従いました。ただし、
読みやすくするために、句切れで改行し、
句間を一字ずつあけました。

句切れは、
 佐伯梅友校注
 『古今和歌集』
 (ワイド版 岩波文庫、1991年6月)
の解釈に従いました。

さらに、
個人的に共感できた歌に☆印をつけ、
わかりやすかった二人の歌意を併記しました。

【奥村釈】
 奥村恆哉校注
 『新潮日本古典集成 古今和歌集』
 (新潮社、1978年7月)

【小町谷釈】
 小町谷照彦訳注
 『古今和歌集』
 (ちくま学芸文庫、2010年3月。初出は旺文社文庫、1982年6月)


  ******
  ******

◎古今和歌集巻第十一 戀歌一(その2)499-528

499
あしひきの 山郭公
わがごとや
君に戀ひつつ いねがてにする

500
夏なれば 宿(やど)にふすぶる かやり火の
いつまでわがみ したもえをせむ

501
戀せじと みたらし河に せしみそぎ
神はうけずぞ なりにけらしも

502
あはれてふ ことだになくば
何(なに)をかは 戀のみだれの つかね緒(を)にせむ

503
おもふには しのぶる事(こと)ぞ まけにける
色にはいでじと 思ひし物(もの)を

504
わが戀を 人しるらめや
しきたへの 枕のみこそ しらばしるらめ

505
あさぢふの をのの篠原(しのはら)
しのぶとも 人しるらめや
いふ人なしに

506
人しれぬ 思(おも)ひやなぞと
あし垣(がき)の
まぢかけれども あふよしのなき

507
おもふとも こふともあはむ 物なれや
ゆふ手(て)もたゆく とくる下紐(したひも)

508
いでわれを 人なとがめそ
おほ舟の ゆたのたゆたに 物思ふころぞ


  ******

509
伊勢の海に つりするあまの うけなれや
心ひとつを 定(さだ)めかねつる

510
いせの海(うみ)の あまの釣縄(つりなは)
うちはへて くるしとのみや 思ひわたらむ

511
涙河 なにみなかみを たづねけむ
物思ふときの わが身なりけり

512
種しあれば 岩にも松は おひにけり
戀をしこひば あはざらめやも

513
あさなあさな 立つ河霧の
空にのみ うきて思の ある世なりけり

☆514☆
わすらるる 時しなければ
あしたづの 思ひ亂れて ねをのぞみなく
【奥村釈】
 この恋しさを忘れられる時とてないから、
 まるで葦鶴のように、心も乱れて、
 声をあげて泣くばかりだ。
【小町谷釈】
 あの人のことが忘れられる時がないので、
 葦辺の鶴が乱れ飛びながら鳴くように、
 私は思い乱れて声を立てて泣くばかりだ。

☆515☆
唐衣 日もゆふぐれに なる時は
返す返すぞ 人は戀しき
【奥村釈】
 夕暮れ時になってくると、
 繰り返し繰り返し、
 あの人のことが思われてならぬ。
【小町谷釈】
 日も夕暮れ時になると、
 返す返すあの人のことが
 恋しく思われてたまらなくなる。

516
よひよひに 枕さだめむ 方もなし
いかにねしよか 夢にみえけむ

☆517☆
戀しきに 命をかふる 物ならば
しにはやすくぞ あるべかりける
【奥村釈】
 人に恋する苦しさと、
 この命とを引き換えることができるものなら、
 死ぬことなどはまったくたやすいことだ。
【小町谷釈】
 人を恋する苦しさに、
 命が引き換えられるものならば、
 死ぬことなどはいともたやすいことだ。

518
人の身も ならはし物を
あはずして いざ心みむ
こひやしぬると


  ******

☆519☆
しのぶれば 苦(くる)しき物を
人しれず 思(おも)ふてふこと たれにかたらむ
【奥村釈】
 恋を忍ぶということは、
 苦しくて仕方のないことだ。
 あの人には知ってもらえないまま恋していると、
 誰に打ち明けられたらよかろうか。
【小町谷釈】
 心の中に思いを秘めて堪えているのは苦しいものだ。
 あの人に知られることなく恋い慕っていることを、
 いったい誰に語ったらよいのだろうか。

520
こむ世にも はやなりななむ
めの前(まへ)に つれなき人を 昔とおもはむ

521
つれもなき 人をこふとて
山びこの こたへするまで 歎(なげ)きつるかな

522
行く水に かずかくよりも はかなきは
思(おも)はぬ人を おもふなりけり

☆523☆
人を思ふ 心は我に あらねばや
身のまどふだに しられざるらむ
【奥村釈】
 人を恋する心は、
 もう自分のものではないからだろうか。
 身体がこうまで戸惑っていても、
 それすら心にはわからない。
【小町谷釈】
 人を恋い慕う心は、
 もう我を失っているので、
 身がこれほどとまどっていることさえ
 分からないのだろうか。

524
思ひやる さかひはるかに なりやする
まどふ夢ぢに 逢ふ人のなき

525
夢の中に 
あひみむ事(こと)を 
頼(たの)みつつ 
くらせるよひは 
ねむかたもなし

526
こひしねと する業(わざ)ならし
むば玉の よるはすがらに 夢にみえつつ

527
涙河 枕ながるる うきねには
夢もさだかに みえずぞありける

☆528☆
こひすれば わが身は影(かげ)と なりにけり
さりとて人に そはぬ物ゆゑ


  ******
  ******

今回の30首(499-528)のうち、
私が共感したのは次の5首でした。

今回は後半の歌に集中しました。

☆514☆
わすらるる 時しなければ
あしたづの 思ひ亂れて ねをのぞみなく

☆515☆
唐衣 日もゆふぐれに なる時は
返す返すぞ 人は戀しき

☆517☆
戀しきに 命をかふる 物ならば
しにはやすくぞ あるべかりける

☆519☆
しのぶれば 苦(くる)しき物を
人しれず 思(おも)ふてふこと たれにかたらむ

☆523☆
人を思ふ 心は我に あらねばや
身のまどふだに しられざるらむ


当然ですが、
読む人によって、
選ぶ歌は変わってくるでしょう。

恋愛の感情は、
1000年くらいの時をへだてても、
意外なほどわかるところがあります。

先は長くなりますが、
気長に進めて参ります。

2015年10月5日月曜日

【読了】三浦綾子著 『氷点(上・下)』(1964-65年発表)

北海道旭川市出身の女性作家
三浦綾子(1922.4-1999.10)の
小説『氷点』を読みました。

著者43歳の時(1965.11)に出版された作品です

アマゾンの検索機能で、
聖書入門の手頃なものを探している時に、
三浦綾子氏の作品群に出会いました。

聖書入門のほうは、
今の私には少し距離があるように感じたのですが、

今から50年前の国民的ベストセラーで、
今なお売れ続けている『氷点』という作品に興味がわき、
読んでみることにしました。

多くの日本人にとって
今なお身近なものとは言いがたい
キリスト教の「原罪」をテーマとした小説であるにも関わらず、

国民的な共感を勝ち得たところにも興味をもちました。


三浦綾子著
『氷点(上・下)』
(角川文庫、1982年1月。改版、2012年6月)
 ※単行本の初出は朝日新聞社、1965年11月。

文庫下巻の解説
(原田洋一氏執筆)を参照すると、

1964年(昭和39年)12月9日から
1965年11月14日まで「朝日新聞」の
朝刊誌上に連載された長編小説で、

1964年7月10日の「朝日新聞朝刊に、
懸賞小説の当選者として三浦綾子氏の
氏名が発表されて一躍脚光を浴びた」とあります(下巻、379頁)。

単行本の出版(1965.11)とほぼ同時に、
テレビドラマ化(1966.1-4)と映画化(1966.3 公開)もされています。

10年程前(2006)にもドラマ化されていたそうですが、
テレビはほとんど観ないので知りませんでした。


  ***

長編ですが、
曖昧なところのない、
わかりやすい小説でした。

位置づけのはっきりした登場人物が、
ほどよい塩梅で飽きの来ない物語を展開していくので、

ちょうどテレビドラマを観るような雰囲気で、
楽しみながら読み進めることができました。

キリスト教の原罪に、
どの程度深く切り込んでいるのかは、
キリスト教徒でない私にはわかりませんが、

日本人の伝統的な死生観とは
明らかに違った世界を描いているので、

その点、
今読んでも意外なほど新鮮な印象が残りました。

人を愛することのむつかしさ、
愛するがゆえに憎まざるを得なくなる人の性、

わかさゆえの純真さ、
向こう見ずなところ、
瑞々しいまでの勢いを感じ取ることができました。

「ゆるし」をテーマとした続編も、
直ちに読み進めようと思います。


※Wikipediaの「三浦綾子」「氷点」を参照。

2015年9月21日月曜日

【読了】Jack London, The Call of the Wild(OBW Stage3)

やさしい英語の本、通算114冊目は、

オックスフォード・ブックワームズの
ステージ3(1,000語レベル)の16冊目として、

アメリカ合衆国の作家
ジャック・ロンドン(1876.1-1916.11)の
小説『野性の呼び声』を読みました。

著者27歳の時(1903.7)に出版された作品です


Jack London
The Call of the Wild

Retold by Nick Bullard
〔Oxford Bookworms Stage3〕
This simplified edition (c) Oxford University Press 2008
First published in Oxford Bookworms 1995
10,965語

やさしい英語で3冊目のロンドンです。

2012年12月
ペンギン・アクティブ・リーディングの
レベル2(600語レベル)で
『野生の呼び声』を、

2013年2月
ペンギン・リーディングの
レベル2(600語レベル)で
『白牙』を読んでいるので、

2度目の『野性の呼び声』ということになります。


前回は初めてということもあって、
あらすじを追うのに気を取られて、
おもしろいのかどうか確信が持てなかったのですが、

今回は動物小説の傑作として、
巧みな構成に感心しながら読み進めることができました。

『シートン動物記』と似たスタンスなのですが、

フィクションである分、
文学作品としてずっと読ませる力があって、

作品の端々から感じられる
荒々しいまでの若々しさが心地良く感じられました。


翻訳は辻井栄滋氏のを気に入り、
最近読み始めたところです。


辻井栄滋(つじいえいじ)訳
『野性の呼び声』
(現代教養文庫、2001年12月)
 ※辻井栄滋訳『決定版 ジャック・ロンドン選集(1)』本の友社、2008年6月に再録。

もう一人、
深町眞理子氏の翻訳も手に入れましたが、
文章の勢いの点で、辻井訳には一歩譲る印象でした。


深町眞理子(ふかまちまりこ)訳
『野性の呼び声』
(光文社古典新訳文庫、2007年9月)

まだ手に入れていませんが、
スティーブンソンの翻訳で感心した
海保眞夫氏の翻訳も出ていたことに気がつき、
発注をかけたところです。


海保眞夫(かいほまさお)訳
『荒野の呼び声』
(岩波文庫、1997年12月)

読み終え次第また報告します。


※通算114冊目。計924,716語。

2015年9月16日水曜日

『古今和歌集』巻第十一 戀歌一 その1(469-498)

『古今和歌集』の恋の歌を読んでいきます。

本文は、
 西下経一校注
 『日本古典全書 古今和歌集』
 (朝日新聞社、1948年9月)
に従いました。

ただし、読みやすくするために、
句切れで改行し、句間を一字ずつあけました。
句切れは、
 佐伯梅友(さえきうめとも)校注
 『古今和歌集』
 (ワイド版 岩波文庫、1991年6月)
の解釈に従いました。

それでは、
まず最初の三十首(469-498)から。

☆印は個人的に共感できた歌です。
自身の理解を助けるために、
比較的わかりやすかった
お二人の解釈を併記しました。

【奥村釈】
 奥村恆哉(おくむらつねや)校注
 『新潮日本古典集成 古今和歌集』
 (新潮社、1978年7月)

【小町谷釈】
 小町谷照彦(こまちやてるひこ)訳注
 『古今和歌集』
 (ちくま学芸文庫、2010年3月。初出は旺文社文庫、1982年6月)


  ******
  ******

◎古今和歌集巻第十一 戀歌一(その1)469-498

469
▽題しらず
◆讀人しらず
ほととぎす なくや五月の あやめぐさ
あやめもしらぬ こひもするかな

☆470☆
◆素性法師
おとにのみ きくの白露
よるはおきて ひるはおもひに あへずけぬべし
【奥村釈】
 菊の白露は、夜に置き、
 昼には日に照らされて消えてしまいます。
 私も、あなたの噂ばかりを聞く白露で、
 夜は起きて焦がれ明かし、
 昼は熱い胸の火にさいなまれて
 消え入ってしまいそうだ。
【小町谷釈】
 あなたの噂を聞くばかりで、
 菊の白露が夜に置き
 昼には日の光に当って消えてしまうように、
 夜は起きていて思いこがれ、
 昼は思いに堪えかねて死んでしまいそうだ。

471
◆紀貫之
吉野川 いはなみたかく 行く水の
はやくぞ人を 思ひそめてし

472
◆藤原勝臣
 白浪の あとなき方に 行く舟も
 風ぞたよりの しるべなりける

473
◆在原元方
おとは山 音(おと)にききつつ
相坂の 關のこなたに 年(とし)をふるかな

474
立ちかへり あはれとぞ思ふ
よそにても 人に心を おきつしらなみ

☆475☆
◆貫之
世の中は かくこそありけれ
吹く風の めにみぬ人も 戀しかりけり
【奥村釈】
 世の中というものが、
 かくも不思議なものであったとは。
 吹く風のように姿はまだ見ぬ人なのに、
 恋しい思いがいちずにつのる。
【小町谷釈】
 男女の間がらとは
 このようなものだったのだな。
 吹く風のように噂ばかりでまだ姿を見たこともない人でも、
 これほど恋しく思われるとは。

476
▽右近のむまばのひをりの日、むかひにたてたりける
 車のしたすだれより、女の顔のほのかに見えければ、
 よむでつかはしける
◆在原業平朝臣
見ずもあらず みもせぬ人の 戀しくば
あやなくけふや ながめくらさむ

477
▽返し
◆讀人しらず
しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ
思(おも)ひのみこそ しるべなりけれ

☆478☆
▽春日の祭にまかれりける時に、物見にいでたりける
 女のもとに、家をたづねてつかはせりける
◆壬生忠岑
かすが野の 雪まをわけて おひいでくる 草の
はつかに 見えし君はも
【奥村釈】
 春日野の残雪をおしわけて萌え出る若草のように、
 わずかに垣間見た、あの初々しいあなた!
【小町谷釈】
 春日野の雪間を分けて萌え出てくる若草のように、
 わずかに見かけたあなたよ。


  ******

☆479☆
▽人の花つみしける所にまかりて、そこなりける人の
 もとに、のちによみてつかはしける
◆貫之
山ざくら 霞のまより
ほのかにも 見てし人こそ 戀しかりかれ
【奥村釈】
 山桜が霞を通して見えるように、
 あの日ほのかにお見受けしたあなたが、
 恋しくてなりません。
【小町谷釈】
 山桜を霞の間から見るように、
 ほのかに見かけたあなたが
 恋しくてたまりません。

480
▽題しらず
◆元方
たよりにも あらぬおもひの あやしきは
心を人に つくるなりけり

☆481☆
◆凡河内躬恒
はつ雁の はつかにこゑを ききしより
なか空にのみ 物を思ふかな
【奥村釈】
 あなたの声を、
 初雁の鳴く声のようにわずかに聞いたその時から、
 心が宙に浮いたようで、
 何ひとつ手につきません。
【小町谷釈】
 初雁の声のように、
 ほんのわずかに初々しいあの人の声を聞いてから、
 私はずっと恋の思いに取りつかれて、
 上の空になっていることだ。

482
◆貫之
あふことは 雲井はるかに
なる神の 音にききつつ 戀ひわたるかな

483
◆読人しらず
かたいとを こなたかなたに よりかけて
あはずば何(なに)を 玉のをにせむ 

☆484☆
ゆふぐれは 雲のはたてに 物ぞ思ふ
あまつ空なる 人をこふとて
【奥村釈】
 夕暮れになると、
 雲の果てを眺めてはもの思いにふけっている。
 天上に住むような、
 とても手の届かぬ人を恋しているので。
【小町谷釈】
 夕方になると、
 雲の果てを眺めながらもの思いにふけることだ。
 恋のかなたにいるような、
 あの貴いお方を恋い慕って。

☆485☆
かりごもの 思ひ乱れて 我こふと
いもしるらめや
人しつげずば
【奥村釈】
 刈り取った菰のように、
 心乱れて恋していると、
 あの人は知っていてくれるだろうか。
 それは望めまい。
 誰かが橋渡しをして伝えてくれなければ。
【小町谷釈】
 刈り取った菰のように、
 思い乱れて私が恋い慕っていると、
 あの人は知らないだろう。
 誰かがそれと知らせてくれなければ。

486
つれもなき 人をやねたく
白露の おくとはなげき ぬとはしのばむ

487
ちはやぶる かもの社(やしろ)の ゆふだすき
ひとひも君を かけぬ日はなし

☆488☆
わが戀は むなしき空に みちぬらし
思ひやれども 行く方もなし
【奥村釈】
 私の恋は、
 空いっぱいに満ちてしまったらしい。
 もはや思いを晴らそうにも、
 どこへも持って行く余地がない。
【小町谷釈】
 私の恋の思いは
 何もないはずの大空いっぱいになってしまったらしい。
 いくら思いを晴らそうとしても、
 そのやり場もないのだから。


  ******

489
するがなる たごの浦浪 たたぬ日は あれども
君を こひぬ日はなし

490
ゆふづくよ さすやをかべの 松の葉の
いつともわかぬ 戀もするかな

☆491☆
あしひきの 山した水の
こがくれて たぎつ心を せきぞかねつる
【奥村釈】
 山陰の水は木隠れながら激しく流れる。
 人知れずわきたぎつ私の恋心も、
 堰きとめることなどできはしない。
【小町谷釈】
 山中の谷川の水は、
 木の間に隠れて早瀬となり激しく流れているが、
 私も心中のわき立つような恋の思いを
 押えかねていることだ。

492
吉野河 いはきりとほし 行く水の
おとにはたてじ
戀はしぬとも

493
たきつせの なかにも淀(よど)は ありてふを
などわが戀の 淵瀬(ふちせ)ともなき

494
山たかみ したゆく水の
したにのみ ながれてこひむ
戀ひはしぬとも

495
思ひいづる ときはの山の 岩(いは)つつじ
いはねばこそあれ
戀しき物を

☆496☆
人しれず おもへばくるし
紅の すゑつむ花の
色にいでなむ
【奥村釈】
 もう、人知れず
 恋い慕うのはやりきれない。
 この際紅花(べにばな)の色みたいに、
 はっきりと素振りに出してほしい。
【小町谷釈】
 心の中に思いを秘めて人知れず
 恋い慕っているのは、もうつらくて堪えられない。
 色鮮やかな紅花(べにばな)のように、
 思いをはっきりと表面に現してしまおう。

497
秋の野(の)の をばなにまじり さく花の
色にやこひむ
あふよしをなみ

☆498☆
わがそのの 梅のほづえに 鶯の
ねになきぬべき 戀もするかな
【奥村釈】
 庭の梅の木の高い枝で、
 鶯が鳴いた。
 私も声に出して泣けるほど、
 悲しい恋をしている。
【小町谷釈】
 わが家の庭の梅の梢で
 鶯が鳴くように、
 声をあげて泣き出してしまいそうな
 悲しい恋をしていることよ。


  ******
  ******

30首のうち、
☆印を付したのは次の11首でした。
思っていたより多く残りました。

☆470☆
◆素性法師
おとにのみ きくの白露
よるはおきて ひるはおもひに あへずけぬべし

☆475☆
◆貫之
世の中は かくこそありけれ
吹く風の めにみぬ人も 戀しかりけり

☆478☆
▽春日の祭にまかれりける時に、物見にいでたりける
 女のもとに、家をたづねてつかはせりける
◆壬生忠岑
かすが野の 雪まをわけて おひいでくる 草の
はつかに 見えし君はも

☆479☆
▽人の花つみしける所にまかりて、そこなりける人の
 もとに、のちによみてつかはしける
◆貫之
山ざくら 霞のまより
ほのかにも 見てし人こそ 戀しかりかれ

☆481☆
◆凡河内躬恒
はつ雁の はつかにこゑを ききしより
なか空にのみ 物を思ふかな

☆484☆
ゆふぐれは 雲のはたてに 物ぞ思ふ
あまつ空なる 人をこふとて

☆485☆
かりごもの 思ひ乱れて 我こふと
いもしるらめや
人しつげずば

☆488☆
わが戀は むなしき空に みちぬらし
思ひやれども 行く方もなし

☆491☆
あしひきの 山した水の
こがくれて たぎつ心を せきぞかねつる

☆496☆
人しれず おもへばくるし
紅の すゑつむ花の
色にいでなむ

☆498☆
わがそのの 梅のほづえに 鶯の
ねになきぬべき 戀もするかな


まどろっこしいことは言いっこなしに、
歌意と対象しながら読んでいるうちに、
自分の中でピンとくるものがあった歌です。

考え尽くしたうえでの結論というわけではないので、
今後二転三転する可能性もあります。

自分で歌を詠む時の、
感性を磨くための密かな愉しみとしていきます。