86〈櫻のちるをよめる〉
凡河内躬恒
雪とのみふるだにあるを桜花いかにちれとか風の吹くらむ
【 桜が散るのを詠んだ(歌)
凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)
ただ雪のように降っているだけであるが、
「桜の花よ、どのように散れ」といって、
風が吹いているのだろうか
▽
※桜 の[名詞+格助詞(主格)]
→桜が
※ちる を[動詞(ラ四)連体形+格助詞(対象)]
→散るのを
※よめ る[動詞(マ四)已然形+助動詞 り 連体形(完了)]
→詠んだ(歌)
▼
※雪 と のみ[名詞+格助詞(引用・比況)+副助詞(限定)]
→ただ雪のように
※ふる だに[動詞(ラ四)連体形+副助詞(最低限)]
ある を[動詞(ラ変)連体形+接続助詞(逆接)]
→降るだけで十分なのに
※桜花[名詞]→桜の花よ
※いかに ちれ[副詞+動詞(ラ四)已然形]
と か[格助詞(引用)+係助詞(疑問 ※係り結び)]
→どのように散れというのか
※風 の[名詞+格助詞(主格)]
吹く らむ[動詞(カ四)連体形
+助動詞 らむ 連体形(現在推量 ※係り結び)]
→風が吹いているのだろう】
87〈ひえにのぼりて帰りまうできてよめる〉
貫之
山たかみみつつわがこし桜花風は心にまかすべらなり
【 比叡山に登って、帰ってきて詠んだ(歌)
貫之(つらゆき)
山が高いので、眺めながら私が登ってきた
桜の花を、風はその心に任せて(散らして)いるようだ
※ひえ に[名詞+格助詞(場所)]→比叡山に
※のぼり て [動詞(ラ四)連用形+接続助詞(単純接続)]
→登って
※帰り まうで き て[動詞(ラ四)連用形+動詞(ダ下二)連用形(謙譲)
+動詞(カ変)連用形+接続助詞(単純接続)]
→帰って来て
※よめ る[動詞(マ四)已然形+助動詞 り 連体形(完了)]
→詠んだ(歌)
▼
※山 たか み[名詞+形容詞(ク)の語幹+接尾語]
→山が高いので
※み つつ[動詞(マ上一)連用形+接続助詞(継続・並行)]
わ が こ し[代名詞+格助詞(主格)+動詞(カ変)連用形
+助動詞 き 連体形(過去)]
→見ながら私が来た
※桜花[名詞]→桜の花を
※風 は 心 に[名詞+係助詞(提示)+名詞+格助詞(基準・対象)]
まかす べらなり[動詞(サ四)終止形+助動詞 べらなり 終止形(推定)]
→風は心に任せて(散らして)いるようだ】
88〈題しらず〉
大伴黒主
春さめのふるは涙かさくら花ちるを惜しまぬ人しなければ
【 大伴黒主(おおとものくろぬし)
春雨が降るのは涙なのか
桜の花が散るのを惜しまぬ人などいないので(そう思う)
▼
※春さめ の[名詞+格助詞(主格)]→春雨が
※ふる は[動詞(ラ四)連体形+係助詞(主題提示)]
涙 か[名詞+係助詞(疑問)]
→降るのは涙なのか
※さくら花[名詞]
→桜の花が
※ちる を[動詞(ラ四)連体形+格助詞(対象)]
惜しま ぬ[動詞(マ四)未然形+助動詞 ず連体形(打消)]
→散るのを惜しまない
※人 し[名詞+副助詞(強意)]
なけれ ば[形容詞(ク)已然形+接続助詞(原因・理由)]
→人などいないので】
89〈亭子の院の歌合の歌〉
貫之
桜花ちりぬる風のなごりには水なき空に波ぞたちける
【 亭子の院(宇多上皇の御所)で催された歌合の歌
貫之(つらゆき)
桜の花が散ってしまった
風のなごりには、水のない空に
波が立っているようだ
※亭子の院 の[名詞+格助詞(連体修飾)]
→亭子の院(宇多上皇の御所)の
※歌合 の 歌[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞]
→歌合の歌
▼
※桜花[名詞]→桜の花が
※ちり ぬる[動詞(ラ四)連用形+助動詞 ぬ 連体形(完了)]
風 の[名詞+格助詞(連体修飾)]
→散ってしまった風の
※なごり に は[名詞+格助詞(時・場合)+係助詞(取り立て・強調)]
→なごりには
※水 なき[名詞+形容詞(ク)連体形]
空 に[名詞+格助詞(場所)]
→水のない空に
※波 ぞ[名詞+係助詞(強意 ※係り結び)]
たち ける[動詞(タ四)連用形
+助動詞 けり 連体形(過去・詠嘆 ※係り結び)]
→波が立っていることだなあ】
90〈ならのみかどの御歌〉
故郷となりにしならの宮こにも色はかはらず花はさきけり
【 奈良のみかど(平城天皇)の御歌
ふるさと(旧都)となってしまった奈良の都にも
(昔と)色は変わらず花は咲いていることだなあ
※なら の みかど[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞]
の 御歌[格助詞(連体修飾)+名詞]
→奈良のみかど(平城天皇)の御歌(みうた)
▼
※故郷と[名詞+格助詞(結果)]
→故郷(旧都)と
※なり に し[動詞(ラ四)連用+助動詞 ぬ 連用形(完了)
+助動詞 き 連体形(過去)]
なら の 宮こ[名詞+格助詞(連体修飾)+名詞]
に も[格助詞(場所)+係助詞(添加)]
→なってしまった奈良の都にも
※色 は[名詞+係助詞(取り立て)]
かはら ず[動詞(ラ四)未然形+助動詞 ず 終止形(打消)]
→色は変わらず
※花 は[名詞+係助詞(取り立て)]
さき けり[動詞(カ四)連用形+助動詞 けり 終止形(詠嘆)]
→花は咲いていることだなあ】
※個人的な暗唱用に。本文のテキストは、西本経一(にしした きょういち)校註『日本古典全書 古今和歌集』(毎日新聞社、1948年9月)による。解釈は今はおもに、久曽神昇(きゅうそじん ひたく)全訳注『古今和歌集(一)』(講談社学術文庫、1979年9月)と、小沢正夫(おざわ まさお)・松田茂穂(まつだ しげほ)校注・訳『完訳 日本の古典9 古今和歌集』(小学館、1983年4月)を参照している。
※ひたすら暗唱は飽きて来ました。どうせ読むのなら、やはり正確に意味がわかったほうが楽しい。とはいえ、1000年に及ぶ解釈の流れを踏まえる時間的な余裕はないので、まっさらな気持ちで、古典文法の定石通りに読んだらどう解釈できるのか、記していくことにしました。テキストと文法のみでどこまで読めるのか興味がわきました。
※ひたすら暗唱は飽きて来ました。どうせ読むのなら、やはり正確に意味がわかったほうが楽しい。とはいえ、1000年に及ぶ解釈の流れを踏まえる時間的な余裕はないので、まっさらな気持ちで、古典文法の定石通りに読んだらどう解釈できるのか、記していくことにしました。テキストと文法のみでどこまで読めるのか興味がわきました。
手元にある高校生向けの古典文法の教科書は、①浜本純逸(監修)・黒川行信(編著)『九訂版 読解をたいせつにする体系 古典文法』(数研出版、2020年11月。初版は1990年2月)と、②井島正博(編著)・伊藤博美・中島ひとみ(著)『詳説 古典文法』(筑摩書房、2012年12月)の2冊。また、学習者向けの古語辞典は、③中村幸弘(編)『ベネッセ 全訳 コンパクト古語辞典』(1999年11月)と、④林巨樹・安藤千鶴子(編)『新 全訳 古語辞典』(大修館書店、2017年1月)の2冊。文法解析の内容は、ChatGPT と Copilot の AI でチェックしました。AIによる文法分析は大変便利なものですが、同じAIでも聞き方や、聞く日時によって微妙に違ってくるので、注意が必要。最終的な文責は栗木が負う。とりあえず先に進めることを重視し、慣れてきたら前に戻って推敲するつもりです。
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