新潮文庫から、江戸川乱歩(えどがわらんぽ、1894年-1965年)の少年探偵団シリーズが出ていることに気がつきました。六七質(むなしち)氏の新しい格好良いカバー装画に惹き寄せられました。調べてみると、現在5冊刊行されていました。
『怪人二十面相 ―私立探偵 明智小五郎―』
(新潮文庫、2016年9月刊行)
『少年探偵団 ―私立探偵 明智小五郎―』
(新潮文庫、2016年12月刊行)
『妖怪博士 ―私立探偵 明智小五郎―』(2017年3月刊行)
『青銅の魔人 ―私立探偵 明智小五郎―』(2022年2月刊行)
『地底の魔術王 ―私立探偵 明智小五郎―』(2022年4月刊行)
10年近く前に、乱歩の文章のわかりやすさに感心し、少年探偵団のシリーズを一通り読もうと志したものの、3冊目迄(『妖怪博士』)で中断していました(ブログ2013年3月)。今回また初めから読むと、同じくらいで飽きが来そうだったので、未読の作品『青銅の魔人』を読んでみることにしました。
江戸川乱歩著
『青銅の魔人 私立探偵 明智小五郎』
(新潮文庫、2022年2月◇173頁)
新潮文庫の巻末に、『江戸川乱歩全集』第15巻(光文社文庫、2004年2月)を底本に用いたと明記していたので、同全集の解題(644頁)を参照したところ、全集の本文は、月刊誌『少年』(光文社)に1949年1月から12月まで連載されたのち、同11月に光文社「痛快文庫」の1冊として刊行されたものを底本とし、『少年探偵団全集⑤』(光文社、1955年2月、13版)と、『少年探偵団全集5』(光文社、1961年12月、初版)を対校に用いたと記してありました。
『江戸川乱歩全集 第15巻 三角館の恐怖』
(光文社文庫、2004年2月◇704頁)
また、光文社の1961年版について「内容的に重要な加筆・削除・訂正はない」が、「漢字をひらき、読点を減らしている」と述べ、これが昔から馴染みのあるポプラ社版(1964年)の底本になったと記してありました。新潮文庫版を開くと、慣れ親しんだポプラ社版とは明らかに字の送り方に違いがあって、大人向けに装いを改めた感がありました。なぜなのか疑問でしたが、これで解決しました。
新潮文庫版が乱歩の初稿に近いすがたを伝えているのに対して、ポプラ社版は乱歩の最終稿を伝えていると言えるでしょう。実際、ポプラ社版のほうが読みやすく、乱歩の推敲の跡が明らかなので、乱歩本人による最終稿として、ポプラ社版の価値は今なお高いと思いました。現在、手に入りやすいのは次の2種です。
『文庫版 少年探偵・江戸川乱歩 第5巻 青銅の魔人』
(ポプラ社、2002年5月。画家 佐藤道明)
『少年探偵 青銅の魔人』
(ポプラ文庫、2008年11月。挿画 柳瀬茂)
柳瀬茂(やなせしげる)氏の挿画が一番馴染み深く、もともと1964年7月にポプラ社から「少年探偵江戸川乱歩全集4」として刊行されました。(このときは第5巻が『大金塊』でした。)
話はそこまで大層なこともなく、むしろ微笑ましさを感じさせるようなトリックで、軽めの娯楽として読み進めることができました。一気に全冊読もうとは思いませんが、とりあえずあと1冊『大金塊』まで読めば、初期の5冊を読んだことになるので、夏の間に読もうと思います。