2011年8月10日水曜日

スマイルズ『向上心』第4章



サミュエル・スマイルズ(Samuel Smiles)著、竹内均 訳
『向上心(CHARACTER)』
(三笠書房、知的生きかた文庫、2011年6月改訂新版)より。

※「書物」讃歌の一章。

第4章 見識を高める

交際している友達を見ればその人がわかるというが、
 読んでいる書物からもその人の人格をうかがい知ることができる。
」134

※いつの間にか学校で、
 良書を読むことを薦められなくなったようです。

 良書の選定にイデオロギーがからんで、
 左翼色が強いものを無理やり薦められるよりは、
 何も言わないほうがよいのかもしれませんが、

 当たり障りのない、誰でもが知っていておくべき、
 古典的な名作は、小学校、中学校、高校にいる間に、
 半ば強制的にでも、目を通しておくような配慮は、
 できないものかな、と思います。


良書は最良の友である。」134

※はいそうです。


先人たちの純粋で正しい思想は、
 われわれが誘惑に負けそうになった時に、
 慈悲深い天使のように次にとるべき行動の芽を示して導いてくれる。
」136

※良書とは何か。


書物には永遠性があり、
 人間が骨を折って生み出したものの中では、
 何と言ってもいちばん息が長い。
 神殿はやがて崩れて廃墟と化し、
 絵画や彫刻は破損してしまうが、
 書物はそのままの形で生き残る。
」137

※書物があってこそ、子孫に伝えられるものがある。


楽しい時も悲しい時も、
 幸せな時も逆境にある時も、
 われわれが憩いと慰めと教えを求めてすがるのは常に書物であり、
 そこにちりばめられている偉人たちの魂である。
」139

※「書物」讃歌。徒然なるままに。


立派な人物の一生の記録は特に有益である。
 それはわれわれの魂に呼びかけ、希望を抱かせ、
 偉大な手本を示してくれる。
 崇高な精神に燃えて義務を果たし一生を終えた人たちの影響力は、
 永久に消えることがない。
」140

※よい伝記は強い影響力をもつ。


誰にでも、
 自分で苦々しく思っている欠点がある。
 自分の身体の中に獰猛な野獣が住んでいるのに気づかぬ人はいない。
 しかし、その野獣をどのようにしてて手なずけているかを
 正直に話してくれる人はほとんどいないのだ。

 (ヴォルテール)154

※伝記には欠点もある。


現実の社会では、
 自分の心の秘密、
 自分にしかわからぬ性格、
 そして何よりも自分の弱みや欠点を見せることは、
 たとえ相手が無二の親友であっても不可能にみえる。

 (フランスのモラリスト、シャンフォール)155


書物は若者の胸に灯をともし、
 情熱をかき立て、予想もしなかった方向に目を向けさせ、
 いつまでもその人格に影響を与える。
」158

※読書の長所。


すぐれた書物は立派な行為に似ているとも言えるだろう。
 それは人を浄化し高め励ましてくれる。
 心を自由に広げ、教養のない俗物主義から守ってくれる。
 良書は高尚な快活さと冷静な人格を生み、
 精神を正しく整え、
 暖かい人間味を人に与える。
」160

※「読書」讃歌。


死ぬ時には感覚的な喜びばかりではなく、
 学問・知識・賢く信心深い人たちとの会話といった、
 より人間らしい喜びや読書の楽しみ、
 話を聞く楽しみとも別れなければならない。
 私は書斎を去らねばならず、
 楽しみがいっぱい詰まった本のページを繰ることもできなくなる。

 (清教徒バクスター)161


書物は人類の知識の宝庫である。
 書物はあらゆる学問の分野における
 あらゆる営為・業績・思想の成功と失敗の記録である。
」161

※書物とは。


言葉は、永久にこの世に残る唯一の存在である。
 (ハズリット)163

※言葉を、書物を大切にしよう。

2011年8月5日金曜日

【読了】ドナルド・キーン『明治天皇(三)』



ドナルド・キーン著、角地幸男訳『明治天皇(三)』
(新潮文庫、平成19年3月。初出は平成13年10月)


『ローマ人の物語』に少し遅れて、読み終わりました。

第3巻では、
いよいよ日清戦争の話が出てきますが、
いたずらに戦争の話に紙面を費やすことはなく、
バランス感覚にすぐれた歴史の叙述になっていると思います。

筆致は覚めているけれども、
先へ先へと読み進められる面白さがあり、
時代背景の叙述にもきちんと配慮されておりますので、
大人向けの明治時代史としてお勧めです。


唯一気になったのは、
いわゆる旅順口事件について、
井上晴樹『旅順虐殺事件』(筑摩書房、平成7年12月)
を全面的に信用し、同書にもとづき記述されているところです。

同事件については、
『ニューヨーク・ワールド』紙のクリールマン記者による第一報が、
日本に対する悪意にみちた嘘宣伝であったことが明らかであり、

その後の記事も、この捏造記事に引きずられて、
事実が歪曲されて伝えられた可能性があるので、

史実の選定には細心の注意が必要です。
新聞にあるから、真実を伝えているとは言えません。

その点、
もう少し深い史料の読みを期待したかったのですが、
史実の判断が少し軽率に感じました。

とはいえ、井上さんの著作に対して
本格的な批判が出されているわけでもないので、
キーンさんの立場からすれば、
まずは穏当な判断といえるのかもしれません。

旅順口事件については、
「南京事件」と同レベルの批判的な研究はなされていないようなので、
もう少し原史料にさかのぼって、検討したいと思います。

井上さんの著作をまだ拝見していないので、
こちらも近々手に入れて、読んでみたいと思っております。