2015年9月21日月曜日

【読了】Jack London, The Call of the Wild(OBW Stage3)

やさしい英語の本、通算114冊目は、

オックスフォード・ブックワームズの
ステージ3(1,000語レベル)の16冊目として、

アメリカ合衆国の作家
ジャック・ロンドン(1876.1-1916.11)の
小説『野性の呼び声』を読みました。

著者27歳の時(1903.7)に出版された作品です


Jack London
The Call of the Wild

Retold by Nick Bullard
〔Oxford Bookworms Stage3〕
This simplified edition (c) Oxford University Press 2008
First published in Oxford Bookworms 1995
10,965語

やさしい英語で3冊目のロンドンです。

2012年12月
ペンギン・アクティブ・リーディングの
レベル2(600語レベル)で
『野生の呼び声』を、

2013年2月
ペンギン・リーディングの
レベル2(600語レベル)で
『白牙』を読んでいるので、

2度目の『野性の呼び声』ということになります。


前回は初めてということもあって、
あらすじを追うのに気を取られて、
おもしろいのかどうか確信が持てなかったのですが、

今回は動物小説の傑作として、
巧みな構成に感心しながら読み進めることができました。

『シートン動物記』と似たスタンスなのですが、

フィクションである分、
文学作品としてずっと読ませる力があって、

作品の端々から感じられる
荒々しいまでの若々しさが心地良く感じられました。


翻訳は辻井栄滋氏のを気に入り、
最近読み始めたところです。


辻井栄滋(つじいえいじ)訳
『野性の呼び声』
(現代教養文庫、2001年12月)
 ※辻井栄滋訳『決定版 ジャック・ロンドン選集(1)』本の友社、2008年6月に再録。

もう一人、
深町眞理子氏の翻訳も手に入れましたが、
文章の勢いの点で、辻井訳には一歩譲る印象でした。


深町眞理子(ふかまちまりこ)訳
『野性の呼び声』
(光文社古典新訳文庫、2007年9月)

まだ手に入れていませんが、
スティーブンソンの翻訳で感心した
海保眞夫氏の翻訳も出ていたことに気がつき、
発注をかけたところです。


海保眞夫(かいほまさお)訳
『荒野の呼び声』
(岩波文庫、1997年12月)

読み終え次第また報告します。


※通算114冊目。計924,716語。

2015年9月16日水曜日

『古今和歌集』巻第十一 戀歌一 その1(469-498)

『古今和歌集』の恋の歌を読んでいきます。

本文は、
 西下経一校注
 『日本古典全書 古今和歌集』
 (朝日新聞社、1948年9月)
に従いました。

ただし、読みやすくするために、
句切れで改行し、句間を一字ずつあけました。
句切れは、
 佐伯梅友(さえきうめとも)校注
 『古今和歌集』
 (ワイド版 岩波文庫、1991年6月)
の解釈に従いました。

それでは、
まず最初の三十首(469-498)から。

☆印は個人的に共感できた歌です。
自身の理解を助けるために、
比較的わかりやすかった
お二人の解釈を併記しました。

【奥村釈】
 奥村恆哉(おくむらつねや)校注
 『新潮日本古典集成 古今和歌集』
 (新潮社、1978年7月)

【小町谷釈】
 小町谷照彦(こまちやてるひこ)訳注
 『古今和歌集』
 (ちくま学芸文庫、2010年3月。初出は旺文社文庫、1982年6月)


  ******
  ******

◎古今和歌集巻第十一 戀歌一(その1)469-498

469
▽題しらず
◆讀人しらず
ほととぎす なくや五月の あやめぐさ
あやめもしらぬ こひもするかな

☆470☆
◆素性法師
おとにのみ きくの白露
よるはおきて ひるはおもひに あへずけぬべし
【奥村釈】
 菊の白露は、夜に置き、
 昼には日に照らされて消えてしまいます。
 私も、あなたの噂ばかりを聞く白露で、
 夜は起きて焦がれ明かし、
 昼は熱い胸の火にさいなまれて
 消え入ってしまいそうだ。
【小町谷釈】
 あなたの噂を聞くばかりで、
 菊の白露が夜に置き
 昼には日の光に当って消えてしまうように、
 夜は起きていて思いこがれ、
 昼は思いに堪えかねて死んでしまいそうだ。

471
◆紀貫之
吉野川 いはなみたかく 行く水の
はやくぞ人を 思ひそめてし

472
◆藤原勝臣
 白浪の あとなき方に 行く舟も
 風ぞたよりの しるべなりける

473
◆在原元方
おとは山 音(おと)にききつつ
相坂の 關のこなたに 年(とし)をふるかな

474
立ちかへり あはれとぞ思ふ
よそにても 人に心を おきつしらなみ

☆475☆
◆貫之
世の中は かくこそありけれ
吹く風の めにみぬ人も 戀しかりけり
【奥村釈】
 世の中というものが、
 かくも不思議なものであったとは。
 吹く風のように姿はまだ見ぬ人なのに、
 恋しい思いがいちずにつのる。
【小町谷釈】
 男女の間がらとは
 このようなものだったのだな。
 吹く風のように噂ばかりでまだ姿を見たこともない人でも、
 これほど恋しく思われるとは。

476
▽右近のむまばのひをりの日、むかひにたてたりける
 車のしたすだれより、女の顔のほのかに見えければ、
 よむでつかはしける
◆在原業平朝臣
見ずもあらず みもせぬ人の 戀しくば
あやなくけふや ながめくらさむ

477
▽返し
◆讀人しらず
しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ
思(おも)ひのみこそ しるべなりけれ

☆478☆
▽春日の祭にまかれりける時に、物見にいでたりける
 女のもとに、家をたづねてつかはせりける
◆壬生忠岑
かすが野の 雪まをわけて おひいでくる 草の
はつかに 見えし君はも
【奥村釈】
 春日野の残雪をおしわけて萌え出る若草のように、
 わずかに垣間見た、あの初々しいあなた!
【小町谷釈】
 春日野の雪間を分けて萌え出てくる若草のように、
 わずかに見かけたあなたよ。


  ******

☆479☆
▽人の花つみしける所にまかりて、そこなりける人の
 もとに、のちによみてつかはしける
◆貫之
山ざくら 霞のまより
ほのかにも 見てし人こそ 戀しかりかれ
【奥村釈】
 山桜が霞を通して見えるように、
 あの日ほのかにお見受けしたあなたが、
 恋しくてなりません。
【小町谷釈】
 山桜を霞の間から見るように、
 ほのかに見かけたあなたが
 恋しくてたまりません。

480
▽題しらず
◆元方
たよりにも あらぬおもひの あやしきは
心を人に つくるなりけり

☆481☆
◆凡河内躬恒
はつ雁の はつかにこゑを ききしより
なか空にのみ 物を思ふかな
【奥村釈】
 あなたの声を、
 初雁の鳴く声のようにわずかに聞いたその時から、
 心が宙に浮いたようで、
 何ひとつ手につきません。
【小町谷釈】
 初雁の声のように、
 ほんのわずかに初々しいあの人の声を聞いてから、
 私はずっと恋の思いに取りつかれて、
 上の空になっていることだ。

482
◆貫之
あふことは 雲井はるかに
なる神の 音にききつつ 戀ひわたるかな

483
◆読人しらず
かたいとを こなたかなたに よりかけて
あはずば何(なに)を 玉のをにせむ 

☆484☆
ゆふぐれは 雲のはたてに 物ぞ思ふ
あまつ空なる 人をこふとて
【奥村釈】
 夕暮れになると、
 雲の果てを眺めてはもの思いにふけっている。
 天上に住むような、
 とても手の届かぬ人を恋しているので。
【小町谷釈】
 夕方になると、
 雲の果てを眺めながらもの思いにふけることだ。
 恋のかなたにいるような、
 あの貴いお方を恋い慕って。

☆485☆
かりごもの 思ひ乱れて 我こふと
いもしるらめや
人しつげずば
【奥村釈】
 刈り取った菰のように、
 心乱れて恋していると、
 あの人は知っていてくれるだろうか。
 それは望めまい。
 誰かが橋渡しをして伝えてくれなければ。
【小町谷釈】
 刈り取った菰のように、
 思い乱れて私が恋い慕っていると、
 あの人は知らないだろう。
 誰かがそれと知らせてくれなければ。

486
つれもなき 人をやねたく
白露の おくとはなげき ぬとはしのばむ

487
ちはやぶる かもの社(やしろ)の ゆふだすき
ひとひも君を かけぬ日はなし

☆488☆
わが戀は むなしき空に みちぬらし
思ひやれども 行く方もなし
【奥村釈】
 私の恋は、
 空いっぱいに満ちてしまったらしい。
 もはや思いを晴らそうにも、
 どこへも持って行く余地がない。
【小町谷釈】
 私の恋の思いは
 何もないはずの大空いっぱいになってしまったらしい。
 いくら思いを晴らそうとしても、
 そのやり場もないのだから。


  ******

489
するがなる たごの浦浪 たたぬ日は あれども
君を こひぬ日はなし

490
ゆふづくよ さすやをかべの 松の葉の
いつともわかぬ 戀もするかな

☆491☆
あしひきの 山した水の
こがくれて たぎつ心を せきぞかねつる
【奥村釈】
 山陰の水は木隠れながら激しく流れる。
 人知れずわきたぎつ私の恋心も、
 堰きとめることなどできはしない。
【小町谷釈】
 山中の谷川の水は、
 木の間に隠れて早瀬となり激しく流れているが、
 私も心中のわき立つような恋の思いを
 押えかねていることだ。

492
吉野河 いはきりとほし 行く水の
おとにはたてじ
戀はしぬとも

493
たきつせの なかにも淀(よど)は ありてふを
などわが戀の 淵瀬(ふちせ)ともなき

494
山たかみ したゆく水の
したにのみ ながれてこひむ
戀ひはしぬとも

495
思ひいづる ときはの山の 岩(いは)つつじ
いはねばこそあれ
戀しき物を

☆496☆
人しれず おもへばくるし
紅の すゑつむ花の
色にいでなむ
【奥村釈】
 もう、人知れず
 恋い慕うのはやりきれない。
 この際紅花(べにばな)の色みたいに、
 はっきりと素振りに出してほしい。
【小町谷釈】
 心の中に思いを秘めて人知れず
 恋い慕っているのは、もうつらくて堪えられない。
 色鮮やかな紅花(べにばな)のように、
 思いをはっきりと表面に現してしまおう。

497
秋の野(の)の をばなにまじり さく花の
色にやこひむ
あふよしをなみ

☆498☆
わがそのの 梅のほづえに 鶯の
ねになきぬべき 戀もするかな
【奥村釈】
 庭の梅の木の高い枝で、
 鶯が鳴いた。
 私も声に出して泣けるほど、
 悲しい恋をしている。
【小町谷釈】
 わが家の庭の梅の梢で
 鶯が鳴くように、
 声をあげて泣き出してしまいそうな
 悲しい恋をしていることよ。


  ******
  ******

30首のうち、
☆印を付したのは次の11首でした。
思っていたより多く残りました。

☆470☆
◆素性法師
おとにのみ きくの白露
よるはおきて ひるはおもひに あへずけぬべし

☆475☆
◆貫之
世の中は かくこそありけれ
吹く風の めにみぬ人も 戀しかりけり

☆478☆
▽春日の祭にまかれりける時に、物見にいでたりける
 女のもとに、家をたづねてつかはせりける
◆壬生忠岑
かすが野の 雪まをわけて おひいでくる 草の
はつかに 見えし君はも

☆479☆
▽人の花つみしける所にまかりて、そこなりける人の
 もとに、のちによみてつかはしける
◆貫之
山ざくら 霞のまより
ほのかにも 見てし人こそ 戀しかりかれ

☆481☆
◆凡河内躬恒
はつ雁の はつかにこゑを ききしより
なか空にのみ 物を思ふかな

☆484☆
ゆふぐれは 雲のはたてに 物ぞ思ふ
あまつ空なる 人をこふとて

☆485☆
かりごもの 思ひ乱れて 我こふと
いもしるらめや
人しつげずば

☆488☆
わが戀は むなしき空に みちぬらし
思ひやれども 行く方もなし

☆491☆
あしひきの 山した水の
こがくれて たぎつ心を せきぞかねつる

☆496☆
人しれず おもへばくるし
紅の すゑつむ花の
色にいでなむ

☆498☆
わがそのの 梅のほづえに 鶯の
ねになきぬべき 戀もするかな


まどろっこしいことは言いっこなしに、
歌意と対象しながら読んでいるうちに、
自分の中でピンとくるものがあった歌です。

考え尽くしたうえでの結論というわけではないので、
今後二転三転する可能性もあります。

自分で歌を詠む時の、
感性を磨くための密かな愉しみとしていきます。

2015年9月14日月曜日

『古今和歌集』の刊本

個人的な楽しみとして、
『古今和歌集』を読んでいきます。

どの刊本でも同じだろうと
安易に考えていたのですが、

手元にあるのを見比べてみると、
漢字の送り方などの面で、
ずいぶん違っていることに気がつきました。

それではと、
それぞれの底本について調べ始めたら、
収拾がつかなくなって来ました。

もしうまくまとまったら、
写本の概要については別にアップすることにして、
今は手元にある刊本について整理しておきます。

自分用に適当に集めただけなので、
全然網羅していません。

古今和歌集 (1948年) (日本古典全書)

◎西下経一(にししたきょういち)校注
 『日本古典全書 古今和歌集』
 (朝日新聞社、1948年9月)


◎佐伯梅友(さえきうめとも)校注
 『日本古典文学大系 古今和歌集』
 (岩波書店、1958年3月)



◯佐伯梅友(さえきうめとも)校注
 『古今和歌集』
 (岩波文庫、1981年1月。ワイド版 岩波文庫、1991年6月)


◯窪田章一郎(くぼたしょういちろう)校注
 『古今和歌集』
 (角川ソフィア文庫、1973年1月)


◯奥村恆哉(おくむらつねや)校注
 『新潮日本古典集成 古今和歌集』
 (新潮社、1978年7月)


◯小町谷照彦(こまちやてるひこ)訳注
 『古今和歌集』
 (ちくま学芸文庫、2010年3月。初出は旺文社文庫、1982年6月)


◯久曾神昇(きゅうそじんひたく)全訳注
 『古今和歌集(一/二/三/四)』
 (講談社学術文庫、1979年9月/82年11月/82年12月/83年1月)


◯高田裕彦(たかだひろひこ)訳注
 『新版 古今和歌集 現代語訳付き』
 (角川ソフィア文庫、2009年6月)


このうち、
刊行後50年を過ぎているのは、
西下経一(にししたきょういち)校注の
『日本古典全書 古今和歌集』なので、

この後の和歌の引用は、
日本古典全書から行うことにします。

引用の際、
理解しやすいように、
句間を一字分あけ、
句切れで改行していきます。

句切れの判断は、
佐伯梅友(さえきうめとも)校注の
『古今和歌集』(岩波文庫)を参考にします。

それぞれの刊本の
底本にまで遡ってまとめるときりがないので、
このくらいで止めておきます。

なお個人的に、
歌の雰囲気をつかみやすかったのは、
奥村恆哉(おくむらつねや)校注の
『新潮日本古典集成 古今和歌集』
でした。

2015年9月10日木曜日

【読了】Thomas Hardy, The Three Stranger and Other Stories(OBW Stage3)

やさしい英語の本、通算113冊目は、

オックスフォード・ブックワームズの
ステージ3(1,000語レベル)の15冊目として、

イギリスの小説家、
トーマス・ハーディ(1840.6-1928.1)の
短編集『見知らぬ三人の男 その他』を読みました。

※邦題は『トマス・ハーディ短編全集1』(大阪教育図書、2001-03)に従いました。


Thomas Hardy
The Three Strangers
 and Other Stories

Retold by Clare West
〔Oxford Bookworms Stage3〕
This simplified edition (c) Oxford University Press 2008
First published in Oxford Bookwarms 2003
11,680語

やさしい英語で4冊目のハーディです。

1冊目の『らっぱ隊長』のみ、
長編小説を要約しすぎたためか、
何が面白いのかよくわからなかったのですが、

2冊目の『萎えた腕』、
3冊目の『ロングパドルからの物語』
4冊目の『見知らぬ三人の男』

と短編集ばかり読んでくると、
だいぶハーディの雰囲気がつかめてきたように思われます。


今回の1冊には、
1)「The Three Strangers (見知らぬ三人の男)」
2)「What the Shepherd Saw (羊飼いの見た事件)」
3)「A Moment of Madness (狂気の瞬間)」
    →原題「A Mere Interlude (ただの幕間劇)」
の短編3編が収められていました。

1) 「The Three Strangers (見知らぬ三人の男)」は、
著者44歳の時(1888)に刊行された
第1短編集『Wessex Tales (ウェセックス物語)』に収録されました。

翻訳は、
山本紀美子訳
「見知らぬ三人の男」
(大榎茂行・内田能嗣監訳
 『トーマス・ハーディ短編全集〈第四巻〉変わりはてた男 とほかの物語』
 大阪教育図書、2001年2月に所収)

井出弘之訳
「三人の見知らぬ客」
(『ハーディ短篇集』岩波文庫、2000年2月に所収)

小林清一訳
「風来三人男」
(小林訳『ハーディ傑作短編集』千城、1991年4月に所収)
 ※小林訳『ハーディ傑作短篇集』(創元社、1984年3月)にも収録。

高畠文夫訳
「三人の見知らぬ客」
(『ハーディ短編集』角川文庫、1977年2月)

などが見つかりました。
最新の山本訳のみ未見。ほかは手に入れました。
井出訳、小林訳、高畑訳の中から選ぶとすれば
小林訳の実直な文体に好感がもてました。

ただどなたの訳も、
翻訳であることがよくわかる硬さのある訳文なので、
英語で感じたほどのおもしろさは感じませんでした。


2) 「What the Shepherd Saw (羊飼いの見た事件)」は、
著者73歳の時(1913)に刊行された
第4短編集『A Changed Man and Other Tales(変わりはてた男 とほかの物語)』
に収録されました。

翻訳は、
井上澄子訳
「羊飼いの見た事件」
(大榎茂行・内田能嗣監訳
 『トーマス・ハーディ短編全集〈第四巻〉変わりはてた男 とほかの物語』
 大阪教育図書、2000年5月に所収)

河野一郎訳
「羊飼の見た事件」
(河野訳『ハーディ短編集』新潮文庫、1968年11月〔19刷改版〕に所収)
 ※改版前(初刷1957年12月)に収録されていたかは未見のため不明。

などが見つかりました。
河野訳のみ手に入れましたが、
よくこなれていて読みやすいです。
現在絶版中で活字がこまかいのが難点です。


3) 「A Moment of Madness (狂気の瞬間)」も、
 「A Mere Interlude (ただの幕間劇)」という原題で、
著者73歳の時(1913)に刊行された
第4短編集『A Changed Man and Other Tales(変わりはてた男 とほかの物語)』
に収録されました。

翻訳は、
山本紀美子訳
「ただの幕間劇」
(大榎茂行・内田能嗣監訳
 『トーマス・ハーディ短編全集〈第4巻〉変わりはてた男 とほかの物語』
 大阪教育図書、2000年5月に所収)

 ※出版社の宣伝で、本邦初訳とうたっていますが、
  下掲の小林訳があるので、本邦初訳というのは誤りです。

小林清一訳
「ただの幕間劇」
(小林訳『ハーディ傑作短編集』千城、1991年4月に所収)
 ※小林訳『ハーディ傑作短篇集』(創元社、1984年3月)には未収録。

が見つかりました。
小林訳のみ手に入れました。
丁寧なわかりやすい訳文です。

ただしすべてを丁寧に訳しすぎて、
勢いに欠けるところもあるように感じました。


  ***

ハーディの短編には、

一見、退屈なだけに思える田舎の日常生活を、
ユーモアを交えつつ
上手に切り出してみせるものが多いようです。

時折、軽めのホラー的な要素が顔をのぞかせるのも
特徴のようで、
私にもそれなりに興味深く読めるものが多そうです。

まだ熱烈に入れ込むほどではありませんが、
次に読むハーディが楽しみになってきました。


※通算113冊目。計913,751語。


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2015年9月7日月曜日

【読了】トーランド著 『大日本帝国の興亡 1』(初出1970)

アメリカの戦史作家
ジョン・トーランド(1912.6-2004.1)の
著書『大日本帝国の興亡』に興味がわいていたところ、
都合よく新版で再刊されたので、読んでいきます。

夏前から読み出して、
最近ようやく1冊目を読み終えました。
よくこなれた訳文ですいすい読めます。


ジョン・トーランド著
毎日新聞社訳
『大日本帝国の興亡〔新版〕1 ― 暁のZ作戦』
(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2015年6月)

 ※初出は毎日新聞社、1971年6月。
  ハヤカワ文庫、1984年7月に再録。

原著は
著者58歳の時(1970.12)に出版されました

1,000頁近くの大著ですが、
Amazonで2,900円ほどで手に入るので、
近々購入しようと思っています。


John Toland
THE RISING SUN
― The Decline and Fall of the Japanese Empire 1936-1945.
New York : Random House, 1970.

原著の構成は、

 Part 1 ― The Roots of War
 Part 2 ― The Lowering Clouds
 Part 3 ― Banzai!
 Part 4 ― Isle of Death
 Part 5 ― The Gathering Forces
 Part 6 ― The Decisive Battle
 Part 7 ― Beyond the Bitter End
 Part 8 ―“One Hundred Million Die Together

の8部から成りますが、
日本語版・第1巻(新版)の「あとがき」をみると、

「日本語訳の出版に当たっては、
 著者の了解を得て、
 原著の構成から離れて、
 次の五巻に分けた。

 第一巻「暁のZ作戦」、
 第二巻「昇る太陽」、
 第三巻「死の島々」、
 第四巻「神風吹かず」、
 第五巻「平和への道」。」

とありますので(新版第一巻、400頁)、
原著とは構成を変えていることがわかります。

どのように変えたのか明示されていないので、
全体を読み終えてから詳しく比較してみようと思います。

第一巻は、

「二・二六事件を契機に
 日本は急速に軍国主義化への道を歩む。
 盧溝橋事件からやがて日華事変の拡大、
 ナチス・ドイツのヨーロッパ進攻に続いて、
 日米双方の努力もむなしく、
 日米開戦の危機が迫っていく
 ―開戦前夜までをまとめたもの」

だそうです(新版第一巻、400頁)。


  ***

書名はだいぶ前から知っていたのですが、

いかにも古めかしい書名だったので、
アメリカ側の一方的な視点から描かれた、
事実を無視した歴史ファンタジー小説なのだろうと勝手に想像していました。

しかし実際は、1970年において
筆者が入手可能な材料を網羅したうえで、

「史実をできるだけ忠実に復元する」ことを意図し、
真摯に取り組まれた太平洋戦争の通史であることを知りました。

実際に手に取ってみて、
44年前のものとは思えない、
良くこなれた読みやすい訳文で、
先へ先へとどんどん読み進めることができました。

冷静に考えて、
これだけ読ませる力のある太平洋戦争の通史は、
読んだ記憶がありません。

確かに今読むと、
部分的な間違いや、
違和感を覚える箇所もあります。

例えば、
「南京事件」を当然の事実として描いているのは、
今読めば明らかにおかしいのですが、

1970年の時点で、
アメリカ人の著者が参照しうる資料から、
穏当に描こうとすればこう書くしかないかな、と思いました。

個人的には、
何となく「南京事件」というのは、
日中戦争がもっと泥沼化してから、

先行きが不透明になって
自暴自棄な状況に陥ってから発生した事件

のように感じていたのですが、
時系列にそって並べてみると、

盧溝橋事件(1937.7)後間もなく、
同年12月に起こったとされていることに驚きました。

南京事件を契機にして、
日中戦争を通じて同様の虐殺事件が起こり続けたのであれば
わからなくもないのですが、

日中戦争が始まってすぐに、
後から取ってつけたかのように、
南京事件があったとされるのは、
違和感があることに気がつけたのは収穫でした。


事実認定の上で、
このレベルでの問題が他にもあるはずだと
想定しておく必要がありますが、

全体としてみれば、

読みやすくわかりやすい、見通しの利いた、
大人向けの太平洋戦争の通史として、よくできた1冊だと思いました。

すぐに第2巻に進みたいと思います。


※Wikipediaの「ジョン・トーランド」を参照。