ドナルド・キーン著、角地幸男訳『明治天皇(三)』
(新潮文庫、平成19年3月。初出は平成13年10月)
『ローマ人の物語』に少し遅れて、読み終わりました。
第3巻では、
いよいよ日清戦争の話が出てきますが、
いたずらに戦争の話に紙面を費やすことはなく、
バランス感覚にすぐれた歴史の叙述になっていると思います。
筆致は覚めているけれども、
先へ先へと読み進められる面白さがあり、
時代背景の叙述にもきちんと配慮されておりますので、
大人向けの明治時代史としてお勧めです。
唯一気になったのは、
いわゆる旅順口事件について、
井上晴樹『旅順虐殺事件』(筑摩書房、平成7年12月)
を全面的に信用し、同書にもとづき記述されているところです。
同事件については、
『ニューヨーク・ワールド』紙のクリールマン記者による第一報が、
日本に対する悪意にみちた嘘宣伝であったことが明らかであり、
その後の記事も、この捏造記事に引きずられて、
事実が歪曲されて伝えられた可能性があるので、
史実の選定には細心の注意が必要です。
新聞にあるから、真実を伝えているとは言えません。
その点、
もう少し深い史料の読みを期待したかったのですが、
史実の判断が少し軽率に感じました。
とはいえ、井上さんの著作に対して
本格的な批判が出されているわけでもないので、
キーンさんの立場からすれば、
まずは穏当な判断といえるのかもしれません。
旅順口事件については、
「南京事件」と同レベルの批判的な研究はなされていないようなので、
もう少し原史料にさかのぼって、検討したいと思います。
井上さんの著作をまだ拝見していないので、
こちらも近々手に入れて、読んでみたいと思っております。
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