2011年8月5日金曜日

【読了】ドナルド・キーン『明治天皇(三)』



ドナルド・キーン著、角地幸男訳『明治天皇(三)』
(新潮文庫、平成19年3月。初出は平成13年10月)


『ローマ人の物語』に少し遅れて、読み終わりました。

第3巻では、
いよいよ日清戦争の話が出てきますが、
いたずらに戦争の話に紙面を費やすことはなく、
バランス感覚にすぐれた歴史の叙述になっていると思います。

筆致は覚めているけれども、
先へ先へと読み進められる面白さがあり、
時代背景の叙述にもきちんと配慮されておりますので、
大人向けの明治時代史としてお勧めです。


唯一気になったのは、
いわゆる旅順口事件について、
井上晴樹『旅順虐殺事件』(筑摩書房、平成7年12月)
を全面的に信用し、同書にもとづき記述されているところです。

同事件については、
『ニューヨーク・ワールド』紙のクリールマン記者による第一報が、
日本に対する悪意にみちた嘘宣伝であったことが明らかであり、

その後の記事も、この捏造記事に引きずられて、
事実が歪曲されて伝えられた可能性があるので、

史実の選定には細心の注意が必要です。
新聞にあるから、真実を伝えているとは言えません。

その点、
もう少し深い史料の読みを期待したかったのですが、
史実の判断が少し軽率に感じました。

とはいえ、井上さんの著作に対して
本格的な批判が出されているわけでもないので、
キーンさんの立場からすれば、
まずは穏当な判断といえるのかもしれません。

旅順口事件については、
「南京事件」と同レベルの批判的な研究はなされていないようなので、
もう少し原史料にさかのぼって、検討したいと思います。

井上さんの著作をまだ拝見していないので、
こちらも近々手に入れて、読んでみたいと思っております。

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