オーストラリアで生まれ、イギリスで活躍した児童文学作家P・L・トラヴァース(Pamela Lyndon Travers, 1899年8月~1996年4月)氏が、35歳の時(1934年)に刊行された小説『メアリー・ポピンズ(Mary Poppins)』を読みました(*1)。挿絵はメアリー・シェパード(Mary Shepard, 1909-2000)氏が担当。昨秋読んだA・A・ミルン(Alan Alexander Milne, 1982-1956)著『くまのプーさん(Winnie-the-Pooh)』(1926年刊行)でも挿絵を担当されていたのは記憶に新しいところです。
(*1)『 Mary Poppins 』のイギリス版は1934年1月にジェラルド・ハウ社(Gerald Howe, London)から、アメリカ版は1934年11月にレイナル&ヒッチコック社(Reynal & Hitchcock, NewYork)から出版されました。
P・L・トラヴァース 著
林容吉(はやしようきち)訳
メアリー・シェパード 絵
『風にのってきたメアリー・ポピンズ』
(岩波少年文庫052、新版、2000年7月◇295頁)
※旧版は1954年4月。
今回は、林容吉(はやし ようきち, 1912年10月~1969年12月)氏の翻訳で読みました。林訳は1954年4月に岩波少年文庫から『風にのってきたメアリー・ポピンズ』という邦題で刊行されました。原著には『 Mary Poppins 』とあるだけなので、ほかの邦訳では『メアリ・ポピンズ』『メアリー=ポピンズ』『メリー・ポピンズ』『空からきたメアリー・ポピンズ』などの邦題が採用されています(*2)。
(*2)林容吉訳のほかには次の①~⑤の邦訳が出ているようです。
①岸田衿子 訳/柏村由利子 絵『メアリ・ポピンズ』(河出書房新社〔少年少女世界の文学8〕1966年12月)所収。岸田訳は (a)『メアリ・ポピンズ』(河出書房新社〔世界文学の玉手箱9〕1993年1月)、および (b) 飯野和好 絵『メアリ・ポピンズ』(サンリオ・ギフト文庫、1976年6月)、および (c) 安野光雅 絵『メアリ・ポピンズ』(朝日出版社、2019年1月)として再録。岸田訳は全12話中第5・7話を省略〔(b・c) の目次を確認。初出訳と (a) は未見〕。
②恩地三保子 訳/山名冬児 絵『空からきたメアリー・ポピンズ』(偕成社、少年少女世界名作選19、1968年4月)。③曽野綾子 訳/赤坂三好 絵『メアリー=ポピンズ』(学習研究社、少年少女世界文学全集17、1968年5月)所収。曽野訳は、赤坂三好 絵『メアリー=ポピンズ』(学研小学生文庫、1979年4月)として再録。④大野芳枝 訳/森国とき彦 絵『空からきたメアリー・ポピンズ』(集英社、マーガレット文庫、1976年8月)。⑤佐山透 訳/わたなべまさこえ 絵『メリー=ポピンズ』(少年少女講談社文庫、1978年11月)。
林容吉訳はこの後、1965年12月に映画『メアリー・ポピンズ(Mary Poppins)』が日本公開されるのに合わせて(米国公開は1964年8月)、1963年11月に第2巻『帰ってきたメアリー・ポピンズ(Mary Poppins Comes Back, 1935)』が、第1巻(『風にのってきたメアリー・ポピンズ』)と合冊で岩波書店から刊行されました(単行本)。続いて1964年12月には第3巻『とびらをあけるメアリー・ポピンズ(Mary Poppins Opens the Door, 1943)』が、1965年11月には第4巻『公園のメアリー・ポピンズ(Mary Poppins in the Park, 1952)』が、それぞれ岩波書店から刊行されました(単行本)。
林訳で紹介されたのはここまで。その後 1988年までに第5・6・7・8巻が刊行されたことは今回調べてみるまで知りませんでした。
第5巻『メアリー・ポピンズ AからZ
(Mary Poppins from A to Z, 1962)』
第6巻『台所のメアリー・ポピンズ
(Mary Poppins in the Kitchen, 1975)』
第7巻『さくら通りのメアリー・ポピンズ
(Mary Poppins in Cherry Tree Lane, 1982)』
第8巻『メアリー・ポピンズとお隣さん
(Mary Poppins and the House Next Door, 1988)』(*3)
(*3)邦訳を1冊ずつ挙げておきます。
⑤荒このみ 訳『メアリー・ポピンズ AからZ』(篠崎書林、1984年5月◇126頁)。⑥小宮由・アンダーソン夏代 訳『台所のメアリー・ポピンズ おはなしとお料理ノート』(アニマ・スタジオ、2014年11月◇112頁)。⑦荒このみ 訳『さくら通りのメアリー・ポピンズ』(篠崎書林、1983年12月◇90頁)。⑧荒このみ 訳『メアリー・ポピンズとお隣さん』(篠崎書林、1989年4月◇90頁)。
さて肝心の内容ですが、これは大当たり。今から70年近く前の訳文なので、読み始めに少し違和感がありましたが、すぐに気にならなくなりました。メアリー・ポピンズの得難いキャラクターにしだいに惹き込まれ、最後は読み終わるのが惜しくなりました。「鳥のおばさん」「ジョンとバーバラの物語」そして「西風」の美しさといったら!
よい読後感でしたので、少し時間をおいて第2巻『帰ってきたメアリー・ポピンズ(Mary Poppins Comes Back)』も読んでみようと思います。
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