2023年4月26日水曜日

【読了】佐藤さとる著『だれも知らない小さな国』(1959年刊行)

 童話作家 佐藤さとる(1928年2月-2017年2月)氏が、31歳の時(1959年3月)に発表された傑作ファンタジー小説『だれも知らない小さな国』を読みました。昔から書名は知っていましたが、子供のころは村上勉(むらかみつとむ 1943年- )氏の独特な挿絵に違和感があって、読んだことがありませんでした。ここ最近、外国のファンタジーだけでは物足りなくなって、日本で誰か面白い作品を書かれた方はいないのか探してみたところ、まず思い出されたのが佐藤氏の「コロボックル物語」でした。村上氏の挿絵も、今では味わいのあるものに思えて来たので、とりあえず1冊取り寄せて、読んでみることにしました。

 この作品は、佐藤氏が31歳の時(1959年3月)に私家版(自費出版)で100部刷られたのが初出(*)。すぐに講談社の編集者の目に止まり、同年8月に若菜珪(わかなけい 1921-1995)氏の挿絵、安野光雅(あんのみつまさ 1926-2020)氏のレイアウトで講談社から出版されました。私家版のほうは表紙画があるのみの簡単な作りですが、その表紙画は、佐藤氏自らの下図をもとに友人の画家 木下欣久(きのしたよしひさ)氏が仕上げたものだそうです(**)

(*)「佐藤さとる年表」(佐藤さとる公式WEB〔https://www.k-akatsuki.jp/〕)参照。
(**)函『【私家版復刻】だれも知らない小さな国』(コロボックル書房〔株式会社あかつき出版部〕2013年2月)の裏表紙を参照。

 村上氏が挿絵を担当するようになったのは、1965年9月に刊行された「コロボックル物語」の第3作目『星から落ちた小さな人』(講談社)からのことで、第2作目『豆つぶほどの小さな犬』(講談社、1962年8月)までは若菜氏が挿絵を担当されていました。1969年11月に「コロボックル物語」3冊をまとめて再刊する時に、第1・2作目の挿絵を村上氏のものに差し替えたようです(*)。若菜珪氏の挿絵による版も古本でなら手に入るので、いずれお目にかかりたい。

(*)神奈川近代文学館のホームページ上のパネル文学館「佐藤さとる『コロボックル物語』」掲載の「コロボックル物語 出版の歴史」を参照。それぞれの現物は未見。

 長く親しまれて来た作品なので調べ出すといろいろなバージョンの『だれも知らない小さな国』が出て来ますが、細かくはまた別の機会に取り上げます。今回手にしたのは 1980年11月に刊行された講談社青い鳥文庫です。総ルビではありませんが、やさしめの漢字にもフリガナを振ってあるので、小4くらいからなら読めると思います。

佐藤さとる(著)/村上勉(絵)
『コロボックル物語1 だれも知らない小さな国』
(講談社青い鳥文庫、1980年11月◇245頁)
 ※第85刷〔2012年9月〕

 実際に読んでみると、今から64年前の作品なので、はじめのうち文体が多少ぎこちなく感じられましたが、物語が進むにつれしだいに惹き込まれ、後半にかけて一気に読み進めることができました。あり得ないはずの小さな人々のお話が、あたかもごく身近なありふれた出来事のように上手く描き出されていると思いました。

 このほか次の2つのバージョンも現役で刊行されているようです。

佐藤さとる(著)/村上勉(絵)
『コロボックル物語1 だれも知らない小さな国』
(講談社文庫、2010年11月◇296頁)
 ※講談社文庫版の初出は1973年7月。

佐藤さとる(著)/村上勉(絵)
『新イラスト版 コロボックル物語1 だれも知らない小さな国』
(講談社、2015年10月◇296頁)

 現在までに刊行された様々なバージョンの『だれも知らない小さな国』については、うまく整理できたらまたこちらにアップします。

 良い読後感でしたので、ぜひ続巻も読んでみようと思います。

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