2015年10月8日木曜日

『古今和歌集』巻第十一 戀歌一 その2(499-528)

『古今和歌集』の恋歌一 その2として、
次の30首(499-528)を読みました。

本文は、
 西下経一校注
 『日本古典全書 古今和歌集』
 (朝日新聞社、1948年9月)
に従いました。ただし、
読みやすくするために、句切れで改行し、
句間を一字ずつあけました。

句切れは、
 佐伯梅友校注
 『古今和歌集』
 (ワイド版 岩波文庫、1991年6月)
の解釈に従いました。

さらに、
個人的に共感できた歌に☆印をつけ、
わかりやすかった二人の歌意を併記しました。

【奥村釈】
 奥村恆哉校注
 『新潮日本古典集成 古今和歌集』
 (新潮社、1978年7月)

【小町谷釈】
 小町谷照彦訳注
 『古今和歌集』
 (ちくま学芸文庫、2010年3月。初出は旺文社文庫、1982年6月)


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◎古今和歌集巻第十一 戀歌一(その2)499-528

499
あしひきの 山郭公
わがごとや
君に戀ひつつ いねがてにする

500
夏なれば 宿(やど)にふすぶる かやり火の
いつまでわがみ したもえをせむ

501
戀せじと みたらし河に せしみそぎ
神はうけずぞ なりにけらしも

502
あはれてふ ことだになくば
何(なに)をかは 戀のみだれの つかね緒(を)にせむ

503
おもふには しのぶる事(こと)ぞ まけにける
色にはいでじと 思ひし物(もの)を

504
わが戀を 人しるらめや
しきたへの 枕のみこそ しらばしるらめ

505
あさぢふの をのの篠原(しのはら)
しのぶとも 人しるらめや
いふ人なしに

506
人しれぬ 思(おも)ひやなぞと
あし垣(がき)の
まぢかけれども あふよしのなき

507
おもふとも こふともあはむ 物なれや
ゆふ手(て)もたゆく とくる下紐(したひも)

508
いでわれを 人なとがめそ
おほ舟の ゆたのたゆたに 物思ふころぞ


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509
伊勢の海に つりするあまの うけなれや
心ひとつを 定(さだ)めかねつる

510
いせの海(うみ)の あまの釣縄(つりなは)
うちはへて くるしとのみや 思ひわたらむ

511
涙河 なにみなかみを たづねけむ
物思ふときの わが身なりけり

512
種しあれば 岩にも松は おひにけり
戀をしこひば あはざらめやも

513
あさなあさな 立つ河霧の
空にのみ うきて思の ある世なりけり

☆514☆
わすらるる 時しなければ
あしたづの 思ひ亂れて ねをのぞみなく
【奥村釈】
 この恋しさを忘れられる時とてないから、
 まるで葦鶴のように、心も乱れて、
 声をあげて泣くばかりだ。
【小町谷釈】
 あの人のことが忘れられる時がないので、
 葦辺の鶴が乱れ飛びながら鳴くように、
 私は思い乱れて声を立てて泣くばかりだ。

☆515☆
唐衣 日もゆふぐれに なる時は
返す返すぞ 人は戀しき
【奥村釈】
 夕暮れ時になってくると、
 繰り返し繰り返し、
 あの人のことが思われてならぬ。
【小町谷釈】
 日も夕暮れ時になると、
 返す返すあの人のことが
 恋しく思われてたまらなくなる。

516
よひよひに 枕さだめむ 方もなし
いかにねしよか 夢にみえけむ

☆517☆
戀しきに 命をかふる 物ならば
しにはやすくぞ あるべかりける
【奥村釈】
 人に恋する苦しさと、
 この命とを引き換えることができるものなら、
 死ぬことなどはまったくたやすいことだ。
【小町谷釈】
 人を恋する苦しさに、
 命が引き換えられるものならば、
 死ぬことなどはいともたやすいことだ。

518
人の身も ならはし物を
あはずして いざ心みむ
こひやしぬると


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☆519☆
しのぶれば 苦(くる)しき物を
人しれず 思(おも)ふてふこと たれにかたらむ
【奥村釈】
 恋を忍ぶということは、
 苦しくて仕方のないことだ。
 あの人には知ってもらえないまま恋していると、
 誰に打ち明けられたらよかろうか。
【小町谷釈】
 心の中に思いを秘めて堪えているのは苦しいものだ。
 あの人に知られることなく恋い慕っていることを、
 いったい誰に語ったらよいのだろうか。

520
こむ世にも はやなりななむ
めの前(まへ)に つれなき人を 昔とおもはむ

521
つれもなき 人をこふとて
山びこの こたへするまで 歎(なげ)きつるかな

522
行く水に かずかくよりも はかなきは
思(おも)はぬ人を おもふなりけり

☆523☆
人を思ふ 心は我に あらねばや
身のまどふだに しられざるらむ
【奥村釈】
 人を恋する心は、
 もう自分のものではないからだろうか。
 身体がこうまで戸惑っていても、
 それすら心にはわからない。
【小町谷釈】
 人を恋い慕う心は、
 もう我を失っているので、
 身がこれほどとまどっていることさえ
 分からないのだろうか。

524
思ひやる さかひはるかに なりやする
まどふ夢ぢに 逢ふ人のなき

525
夢の中に 
あひみむ事(こと)を 
頼(たの)みつつ 
くらせるよひは 
ねむかたもなし

526
こひしねと する業(わざ)ならし
むば玉の よるはすがらに 夢にみえつつ

527
涙河 枕ながるる うきねには
夢もさだかに みえずぞありける

☆528☆
こひすれば わが身は影(かげ)と なりにけり
さりとて人に そはぬ物ゆゑ


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今回の30首(499-528)のうち、
私が共感したのは次の5首でした。

今回は後半の歌に集中しました。

☆514☆
わすらるる 時しなければ
あしたづの 思ひ亂れて ねをのぞみなく

☆515☆
唐衣 日もゆふぐれに なる時は
返す返すぞ 人は戀しき

☆517☆
戀しきに 命をかふる 物ならば
しにはやすくぞ あるべかりける

☆519☆
しのぶれば 苦(くる)しき物を
人しれず 思(おも)ふてふこと たれにかたらむ

☆523☆
人を思ふ 心は我に あらねばや
身のまどふだに しられざるらむ


当然ですが、
読む人によって、
選ぶ歌は変わってくるでしょう。

恋愛の感情は、
1000年くらいの時をへだてても、
意外なほどわかるところがあります。

先は長くなりますが、
気長に進めて参ります。

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