前作『氷点』に続いて、
北海道旭川市出身の女性作家
三浦綾子(1922.4-1999.10)の
小説『続 氷点』を読み終えました。
『朝日新聞』朝刊
〔1970年5月12日-71年5月10日〕に連載され、
著者49歳の時(1971年5月)に朝日新聞社から刊行された小説です。
三浦綾子著
『続 氷点(上・下)』
(角川文庫、1982年3月、改版、2014年8月)
前作は『朝日新聞』朝刊
〔1964年12月9日-65年11月14日〕に連載され、
著者43歳の時(1965年11月)に朝日新聞社から刊行されていたので、
6年近くのちに書かれた続編ということになります。
今回も読みやすい文章で、
興味深く、最後まで読み終えることができました。
前作が「原罪」をテーマにしていたのに対して、
今回は「ゆるし」をテーマにされていたそうです。
前作で未解決のまま
放置されていた問題に対して、
著者なりの解答を出そうとした結果、
力技でまとめた感じの
若干残念な作品になっていたように思いました。
***
特に残念だったのは、
物語の核心的な部分で、
日本軍によるありえないレベルの残虐行為を、
登場人物の一人に自らの原罪として告白させていたところです。
今読めば荒唐無稽にしか感じない内容が、
あたかも事実であったかのように描かれていたので、
物語の最後に来て、読書熱が一気に冷めてしまいました。
三浦氏は歴史の専門家ではなく、
小説家である以上、真実を描く必要はないのですが、
物語のクライマックスで、
正直に、自らの「原罪」を語る場面で、
巧みに虚構の歴史を織り交ぜてくるところは、
作者の政治的な意図が垣間見え、
非常に残念でした。
***
1970-71年当時の
三浦氏の歴史認識は、
何によっていたのか興味がわきました。
すぐに思いついたのは、
本多勝一氏の『中国の旅』です。
本多勝一著
『中国の旅』
(朝日新聞社、1972年1月)
同書は
『朝日新聞』の1971年8月から12月まで連載され、
1972年1月に朝日新聞社から刊行された作品です。
三浦氏は、
『中国の旅』の内容を歴史的事実と認識し、
自著に利用したのではないかと思ったのですが、
『続 氷点』は
1970年5月から翌年5月まで
『朝日新聞』に連載されたものなので、
1971年8月から発表された『中国の旅』を、
三浦氏が参照することは不可能でした。
それでは三浦氏は、
何を読んだのだろうと思い、
もう少し調べたところ、
『中国の旅』の15年前、
1957年3月に同じような書物として、
三光―日本人の中国における戦争犯罪の告白 (1957年) (カッパ・ブックス)
神吉晴夫編
『三光 ―日本人の中国における戦争犯罪の告白』
(光文社 カッパ・ブックス、1957年3月)
が出ていたことに気がつきました。
中国の戦犯収容所に収容された
日本人戦犯の手記という名目で刊行されたものなので、
三浦氏は『三光』の記述を事実と判断し、
『続 氷点』にみえる
日本軍の残虐行為の記述に反映された可能性が高いように思われます。
今読めば、
政治的な情報操作の行われていたことが明白な書物なのですが、
当時は、
それを事実と信じることこそが、
善良な日本人のあり方だ考えたのかもしれません。
しかし、
原罪とゆるしをテーマとする小説を執筆する中で、
冷静に考えれば
史実でないことが明らかな、
人道にもとる残虐行為を私は犯しました!
と嘘の告白をさせ、
偽りの原罪を背負わせてしまうことは、
物語の構成上、かなり安易であるように思われました。
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