2021年5月12日水曜日

研究報告

いつまでも「中間」報告はおかしいので、今回からは「研究報告」とします。春先は本業がそれなりに忙しく、思うように執筆は進みませんでした。相変わらず第1章に苦心しています。

論文の中で、平安朝漢文日記の「部類記」の成立について触れる必要があったので、近年発表された研究に目を通していました。そんな中、壮大なスケールで全体像を描く興味深い論文を見つけました。そんなこともあるのかなと精読してみると、仮説が先に立ち、必ずしも証明されていないことがわかりました。これまでなかった視点を提起するのは大切ですが、肝心の論拠に乏しい場合、そのままよりどころにするのは危険と判断せざるを得ません。

昔書いた拙論も批判の対象にされていたので、何か反論できないか思案しましたが、曖昧な書き方をされている部分が多いと、反論は意外と難しい。今書いている論文のなかに取り込むのは断念し、別稿を準備することにしました。史料の整理に少し時間がかかりそうですが、現行本『西宮記』の成立に深く関わる源経頼の、日次記『左経記』とその部類記『類聚雑例』の成立過程について分析する論文になると思います。

そんなこんなで、平安朝漢文日記(古記録)についての知見をリニューアルするのに少し手間取っていました。次はお盆のころに。第1章がだいたい仕上がっているといいな。

2021年5月7日金曜日

【読了】夏目漱石著『三四郎』(角川文庫)

 今さら感もありますが、夏目漱石(慶応3年〔1867〕1月5日~大正5年〔1916〕12月9日)の小説『三四郎』を読みました。漱石42歳の時、明治42年(1909)5月に春陽堂から出版されました。初期3部作の1作目で、この後『それから』『門』へと続いていきます。

 だいぶ前に総ルビの漱石全集を購入し、初期の作品をいくつか読んだのですが、今一つ何が良いのかわからないところがあって、中断していました。その後『三四郎』『それから』『門』の初期三部作をマンガで読む機会がありました。これが意外な面白さ。今でいう連ドラを観る感覚で、軽めに楽しめば良いのかなと思い直しました。

夏目漱石 著/加藤礼次朗 漫画『三四郎』

(ホーム社漫画文庫、2010年8月)

夏目漱石著/富沢みどり 漫画『それから』

(ホーム社漫画文庫、2010年9月)

夏目漱石著/井上大助 漫画『門』

(ホーム社漫画文庫、2010年10月)


 文庫本をいくつか手に取ったなかで、どうせなら今の日本語を読むのと同じ感覚で、楽に読み通せるものをと思い、見比べてみたところ、角川文庫の用字が一番読みやすかったので、こちらを購入しました。表紙のデザインもお気に入りで、あともう少し活字が大きければ言うことなしです。

夏目漱石 著『三四郎』

(角川文庫、初版、1951年10月。145刷、2019年2月)

 内容的に、大学進学とともに上京して、都会で青春時代を送ったような人には、より多く共鳴できるものがあるのだろうなと思いました。角川文庫による編集のおかげでかなり読みやすくなっていますが、今では用いない独特な言い回しもところどころ出て来て、現代文として少し荒削りな印象も残りました。

 続いて『それから』に挑戦をと思い、購入したのですが、じっくり読んでいると、その間、自分の研究が疎かになっていることに気がつきました。読書は老後の楽しみに取っておいても何とかなるので、漱石は少し置いておくことにしましょう。

2021年5月5日水曜日

【読了】ヒュー・ロフティング著/河合祥一郎訳『新訳 ドリトル先生航海記』(角川つばさ文庫)

 イギリス出身の児童文学作家ヒュー・ロフティング(Hugh Lofting, 1886年1月14日~1947年9月26日)の児童小説『ドリトル先生航海記 The Voyages of Doctor Dolittleを読みました。アメリカの出版社 Frederick A. Stokes Company から、ロフティング36歳のとき(1922年8月)に出版された作品です。1920年に出版された『ドリトル先生アフリカへ行く』に続くシリーズ第2作目です。

 第1作『アフリカへ行く』のほうは7年前に読み終えていました。その時はそれほどピンと来なかったので続編は読んで来なかったのですが、ここに来て少し、動物とおしゃべりするのも悪くないかと、ロフティングのやさしい世界観に馴染んできて、改めて続編を読んでみる気になりました。

 近年、シリーズ全巻の新訳を出された河合祥一郎(かわいしょういちろう)氏の翻訳で読みました。

ヒュー・ロフティング著

河合祥一郎(かわいしょういちろう)訳

『新訳 ドリトル先生航海記』

(角川つばさ文庫、2011年7月)


 河合訳は昨年、大人向きに書き直した角川文庫版も出ています。ただもともと子供向きの作品なので、読みやすいのが一番だと思い、角川つばさ文庫のほうで読み進めました。

ヒュー・ロフティング著

河合祥一郎(かわいしょういちろう)訳

『新訳 ドリトル先生航海記』

(角川文庫、2020年2月)


 周知の井伏鱒二(いぶせますじ)訳『ドリトル先生航海記』は、もともとに講談社の世界名作全集24(1952年2月)として刊行されたのが最初です。その8年後に岩波少年文庫194(1960年9月)として、またその翌年に岩波書店のドリトル先生物語全集2(1961年10月)として、それぞれ再刊されました。

 私が知っていたのは岩波少年文庫のほうです。昔はそれほど興味を覚えなかったのですが、今読んでみると、小中学生のころまでに、このシリーズに夢中になる機会があったなら、自分が知らなかった新しい世界が広がっていたのだろうなと思いました。総じて明るく優しい気分に包まれた、夢にあふれる楽しい作品でした。

ヒュー・ロフティング著

井伏鱒二(いぶせますじ)訳

『ドリトル先生航海記』

(岩波少年文庫022、改版、2000年6月。初版は1960年9月)


 まだ全巻一気に読まなければ!というほどハマっているわけではないので、また少し時間を置いてから、ゆっくり読み進めていこうと思います。