夏目漱石(慶応3〔1867〕-大正5〔1916〕)の8作目は、
短編小説『趣味の遺伝(しゅみのいでん)』を読みました。
漱石全集〈第2巻〉短篇小説集 (1966年)
夏目漱石「趣味の遺傳 ―明治三九、一、一〇 ―」
(『漱石全集 第二巻 短篇小説集』岩波書店、昭和41年1月)
「趣味の遺伝」は、
雑誌『帝国文学』明治39年〔1906〕1月号に発表され、
漱石初の短編集『漾虚集(ようきょしゅう)』
(大倉書店・服部書店、明治39年5月刊)に収録されました。
『吾輩は猫である』と
ほぼ同時期、39歳の時に書かれた作品です。
***
これは作品として多少不完全というか、
まとまりに欠ける所があるのですが、
部分部分で面白味があって、
意外に楽しみながら読み終えることが出来ました。
明治38年〔1905〕に激戦の末
勝利した日露戦争で戦死した友人について回想する、
という趣向で、
友人が恋していたらしい娘と、
残された母親、
戦争万歳でも、反対でもない、
漱石の冷めた視点がからんで、
部分部分に読ませる文章の力を感じました。
***
漱石初の短篇集『漾虚集』に収録された七つの作品は、
これで終わりです。
正直なところ私にとって、
今後も繰り返し読みたいと思わせる名作揃い、
とはお世辞にも言えなかったのですが、
あの漱石ですら、
デビューすると同時に、
小説家として完成されていたわけでないことを知られたのは
一番の収穫でした。
長編『吾輩は猫である』と短編集『漾虚集』によって、
漱石の小説家としての土台が確立した、
と言って良いのかは、
この続きをもう少し読み進めてから判断したいと思います。
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