ユン・チアン(張戎 1952.3- )氏と、
イギリス在住のロシア史研究家
ジョン・ハリディ(John Halliday)氏の共著による
毛沢東(1893.12-1976.9)の評伝
“MAO The Unknown Story”の翻訳
『真説 毛沢東 誰も知らなかった実像(上)』を読みました。
2005年に土屋京子(つちやきょうこ)氏の翻訳で出版された
『マオ 誰も知らなかった毛沢東(上)』を改題のうえ再刊したものです。
ユン・チアン&ジョン・ハリディ共著
土屋京子(つちやきょうこ)訳
『真説 毛沢東 誰も知らなかった実像(上)』
(講談社α文庫、2016年6月)
※下巻末の追記に、
「この本の原著“MAO The Unknown Story”が出版されたのは、二〇〇五年六月でした。その後、著者が原著のところどころに加筆、削除、修正をほどこし、現在、著者の意向を最も正確に反映しているのはヴィンテージ・ブックスから二〇〇七年に出された版です。/今回、単行本『マオ 誰も知らなかった毛沢東』を講談社+α文庫から『真説毛沢東 誰も知らなかった実像』として出版しなおす機会に、最新版の “MAO” にもとづいて、日本語の訳文も数十ヵ所の加筆、削除、訂正をおこないました。/二〇一六年五月 土屋京子」
とある(下巻705頁)。
2005年に単行本が出た時に、
ぜひ読もうと思って手に入れたのですが、
1100頁(562頁+556頁;単行本)を超える大著に、
いずれ時間ができたらと躊躇しているうちに10年過ぎていました。
今回、せっかく再刊されたので、
文庫なら取っ付きやすくて良いかもと手に取って、
読み出してみたところ止まらなくなり、
そのまま上巻を読み終えていました。
まだ下巻が残っていますが、
文庫の上巻だけで773頁もあったので、
途中で挫折しないようにブログにアップしておきます。
参考までに上巻の章立てをまとめておきます。
第1部 信念のあやふやな男
第1章 故郷韶山を出る
1893-1911年★毛沢東誕生-17歳
第2章 共産党員となる
1911-20年★毛沢東17-26歳
第3章 なまぬるい共産主義者
1920-25年★毛沢東26-31歳
第4章 国民党内での浮沈
1925-27年★毛沢東31-33歳
第2部 党の覇権をめざして
第5章 紅軍を乗っ取り、土匪を平らげる
1927-28年★毛沢東33-34歳
第6章 朱徳を押さえこむ
1927-30年★毛沢東34-36歳
第7章 さらなる野望、妻の刑死
1927-30年★毛沢東33-36歳
第8章 血の粛清で「主席」へ
1929-31年★毛沢東35-37歳
第9章 中華ソビエト共和国
1931-34年★毛沢東37-40歳
第10章 逆風の中で孤立する
1931-34年★毛沢東37-40歳
第11章 長征から外されかける
1933-34年★毛沢東39-40歳
第12章 長征(一)蒋介石の心算
1934年★毛沢東40歳
第13章 長征(ニ)黒幕として実権を握る
1934-35年★毛沢東40-41歳
第14章 長征(三)モスクワを独占する
1935年★毛沢東41歳
第3部 権力基盤を築く
第15章 劉志丹の死
1935-36年★毛沢東41-42歳
第16章 西安事件
1935-36年★毛沢東41-42歳
第17章 「共匪」から国政へ
1936年★毛沢東42-43歳
第18章 新しいイメージ、新しい生活、新しい妻
1937-38年★毛沢東43-44歳
第19章 戦争拡大の陰に共産党スパイ
1937-38年★毛沢東43-44歳
第20章 抗日より政敵排除・蒋介石打倒
1937-40年★毛沢東43-46歳
第21章 中国の分割を望む
1939-40年★毛沢東45-46歳
第22章 新四軍を死の罠にはめる
1940-41年★毛沢東46-47歳
第23章 恐怖の力で基盤を固める
1941-45年★毛沢東47-51歳
第24章 王明に毒を盛る
1941-45年★毛沢東47-51歳
第25章 中国共産党最高指導者
1942-45年★毛沢東48-51歳
第4部 中国の覇者へ
第26章 「革命的阿片戦争」
1937-45年★毛沢東43-51歳
第27章 ソ連軍がやってくる!
1945-46年★毛沢東51-52歳
第28章 ワシントンに救われる
1944-47年★毛沢東50-53歳
第29章 スパイ、裏切り、私情で敗れた蒋介石
1945-49年★毛沢東51-55歳
第30章 中国征服
1946-49年★毛沢東52-55歳
第31章 共産中国ただひとりの百万長者
1949-53年★毛沢東55-59歳
毛沢東(1893-1976)の人生を
幼いころから順にたどっているのですが、
細かな歴史的事実を丹念に考証していくというよりは、
毛沢東の人生について大枠を語りながら、
中国の近現代史の大きな流れを、
改めて語り直そうとする意図があるようで、
ソ連から中国への影響を紐解きつつ、
この時期の中国史を俯瞰できるように描かれていて、
たいへん勉強になりました。
個人的に興味深かったのが、
ソ連時代のスパイ関係の史料を用いて、
中国共産党の成立にソ連がどのように関与していたのか、
相当踏み込んで言及しているところです。
ソ連あってこその中国共産党、
ソ連あってこその毛沢東であったことが、
具体的にかなりよくわかるように描かれているので、
今も現役の中国共産党にとって、
確かに本書の存在はまずいのだろうと感じました。
史料の扱い方をみると、
小説家ががんばってどうにかなるレベルでは全くないので、
ロンドン大学キングス・カレッジの前上級客員特別研究員であった
ロシア研究家ジョン・ハリディ氏の研究によるところが大きいように思われました。
ソ連の傀儡としての東ヨーロッパに対応する存在として、
ソ連の傀儡としての中華人民共和国があると考えると、
ヨーロッパにおいては
一番の毒牙であった独裁者ヒトラーが倒されたのに対して、
東アジアにおいては、
人を殺すことにかけてはヒトラーも真っ青なレベルの
毛沢東が生き残ったまま戦後を迎え、
彼を支えた中国共産党はいまだに現役であるという。
この現状は、
ヒトラーがスターリンと手を結んで、
ヨーロッパの大半を占領したまま戦後を生きのび、
今なおナチス党が現役で活躍するヨーロッパを想像したらよいでしょう。
そんな大きな視点を与えてくれている点で、
私にとってとても重要な1冊になりそうです。
なお本書にはほとんど言及されていませんが、
ソ連のスパイは当然、同じくらいの頻度で
日本にも関与していたはずなので、
日本の近現代史において、
ソ連のスパイがどのように関与していたのか、
ソ連時代の史料を用いれば、
まだまだ研究の余地があるように思われました。
でもしかし、
ロシア語と中国語と英語と日本語に堪能な、
思想的な偏向のない歴史の研究者というのは、
日本ではほぼありえない前提なのかもしれません。
そんな感想を抱きつつ、
下巻へと進みます。
※Wikipediaの「ユン・チアン」「ジョン・ハリディ」を参照。
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