2022年12月25日日曜日

【読了】A・A・ミルン著/森絵都訳『プー通りの家』(角川文庫)

 イギリスの作家 A・A・ミルン(Alan Alexander Milne, 1882-1/18~1956-1/31)氏の児童小説『 The House at Pooh Corner 』を、2017年11月に刊行された森絵都(もりえと、1968年4月~ )氏の翻訳(『プー通りの家』角川文庫)で読みました。原書は1928年1月にイギリスのメシュエン出版(Methuen Publishing)から、E・H・シェパード(Ernest Howard Shepard, 1879-12/10~1976-3/24)氏の挿絵で刊行されました。第2作目ですが、これで完結です。

森絵都(もりえと)
村上勉(むらかみつとむ)
『プー通りの家』
(角川文庫、2017年6月◇253頁)

こちらも日本では、石井桃子(いしいももこ 1907-3/10~2008-4/2)氏が『プー横丁にたった家』という邦題で翻訳し、1942年6月に岩波書店から刊行されたのが初出です。よく知られている岩波少年文庫版は1958年9月に刊行(旧版。新版は2000年11月刊行)。手元には岩波少年文庫の新版が置いてありますが、翻訳から80年をへて、訳文に幾分の古めかしさを感じるのは避けがたいことで、今一つ馴染めないまま「積ん読」状態になっていました。

石井桃子(いしいももこ)
E・H・シェパード 絵
『プー横丁にたった家』
(岩波少年文庫、新版2000年11月◇272頁)
 ※旧版は1958年9月刊行。

今回は『クマのプー』に続き、森絵都氏の翻訳で『プー通りの家』を読んでみました。前作の勢いそのままに、違和感なくプーさんの世界にひたることができました。今の言葉でわかりやすく語り直されていて、魅力に富んだ村上勉(むらかみつとむ、1943年~ )氏の挿絵とともに、初めてプーさんの原作の魅力に近づくことができました。2冊で完結するその背景も興味深く、ミルン独特の世界観に惹きつけられました。今後もいろいろな方々に読んでいただきたい、高い完成度の作品だと思いました。

阿川佐和子(あがわさわこ、1953年11月~ )氏の新訳は手元においてあります。前作と同じく、魅力的な文体には惹かれたものの、挿絵が物語の背景をほとんど語っていないことに不満を覚えてまだ読んでいません。今後、あらすじがすっかり頭に入ったころに挑戦しようと思います。

阿川佐和子 訳
100%ORANGE(イラストレーション)
『プーの細道にたった家』
(新潮社、2016年7月◇234頁)

2022年11月13日日曜日

【読了】A・A・ミルン著/森絵都訳『クマのプー』(角川文庫)

 イギリスの作家 A.A.ミルン(Alan Alexander Milne, 1882-1/18~1956-1/31)氏の児童小説『 Winnie-the-Poohを、2017年6月に刊行された森絵都(もりえと)氏の翻訳(『クマのプー』角川文庫)で読みました。原書は1926年10月、ミルン氏44歳のときにイギリスのメシュエン出版(Methuen Publishing)から刊行されました。挿絵はE・H・シェパード(Ernest Howard Shepard, 1879-12/10~1976-3/24)氏。

森絵都
村上勉(むらかみつとむ)
『クマのプー』
(角川文庫、2017年6月◇236頁)

 手元には長らく、石井桃子(いしいももこ 1907-3/10~2008-4/2)氏の翻訳された『クマのプーさん』(岩波少年文庫〔新版〕2000年6月/〔旧版〕1956年10月)を置いてありました。石井訳は、1940年12月に岩波書店から『熊のプーさん』と題して刊行されたのが初出で、わりと最近になるまで『 Winnie-the-Pooh 』といえば石井訳の『クマのプーさん』を読む以外ありませんでした。シェパード氏の魅力的な挿絵とともに、今なお定番の位置を占めているといって良いでしょう。

 ただ翻訳から80年以上も過ぎて、訳文に古めかしさが出てくるのは仕方のないところで、はじめて読むと案外読みにくく、個人的には今一つ馴染めないまま、「積ん読」状態が続いていました。

石井桃子 訳
E.H.シェパード 絵
『クマのプーさん』
(岩波少年文庫008〔新版〕2000年6月◇253頁)
 ※岩波少年文庫124(旧版)1956年10月◇256頁

 その後、2014年3月に新潮社から阿川佐和子(あがわさわこ)氏の新訳『ウィニー・ザ・プー』が刊行された時すぐに手に入れてみましたが、阿川氏の個性的な文体と、内容を反映しない新しいイラストに今一つ馴染むことができませんでした。イラスト自体は可愛らしい、違和感のないものだったのですが、ストーリーの流れがあまり反映されておらず、初めて読む者にとって意図を理解しかねるところがありました。あくまで石井訳とシェパードの絵に慣れ親しんだ方々が、新しい刺激を求めて読むのに適しているように感じました。

阿川佐和子 訳
100%ORANGE(イラストレーション)
『ウィニー・ザ・プー』
(新潮文庫、2016年7月◇222頁)
 ※単行本は新潮社、2014年3月◇206頁

 阿川訳が新潮文庫に再録された翌年(2017年6月)、初めて角川文庫にお目見えしたのが、森絵都(もりえと)氏の翻訳された『クマのプー』でした。阿川訳の印象が強く残っていたため、あえて読まなくても良いかと手に取らずにいたのですが、最近ふと気になって読んでみたところ、言葉の選び方が実に的確。かゆいところに手が届く、今の言葉による優れた訳文で、納得のうちに読み終えることができました。村上勉(むらかみつとむ)氏による挿絵もシェパードのそれを忘れさせる見事な出来栄えで、文庫のみでひっそりと知られているのが惜しくなりました。近い将来、角川みらい文庫などにも収録して、広く知られるようになってもらいたい1冊です。

 続いて第2作『プー通りの家』に進みます。

2022年10月31日月曜日

【読了】トーベ・ヤンソン作・絵/山室静訳『たのしいムーミン一家(新装版)』(講談社青い鳥文庫)

スウェーデン語系フィンランド人の作家トーベ・ヤンソン(Tove Jansson, 1914年8月9日~2001年6月27日)の小説『たのしいムーミン一家』を、山室静(やまむろしずか 1906年12月~2000年3月)氏の翻訳で読みました。ムーミン・シリーズの第3作目に当たります。

1948年にスウェーデン語で『Trollkarlens Hatt(魔物のぼうし)』と題して出版されました。1950年に英語で『Finn Family Moomintroll(フィンランドの一家ムーミントロール)』と題して刊行(イギリス版)。アメリカでは1952年に『The Happy Moomins(たのしいムーミン一家)』と題して刊行されました。そして1956年にフィンランド語で『Taikurin hattu(魔物のぼうし)』と題して刊行されました。

※以上、ムーミンの公式サイト所載の「Introduction to Moomin Stories: Finn Family Moomintroll, 1948」(2015年11月30日)【https://www.moomin.com/en/blog/introduction-to-moomin-stories-finn-family-moomintroll-1948/#773ec201】、および『たのしいムーミン一家』(講談社文庫、2011年4月)274~283に収録された山室静氏の「1978年4月15日 文庫版への『解説』」を参照しました。


日本では1965年12月に、山室静氏の翻訳で講談社から出版されました。1948年刊行の『Trollkarlens Hatt』からの翻訳です。ムーミン単独の本として日本で最初に刊行された作品で、2015年7月にムーミン出版70周年として復刻版が刊行されました。

山室静訳『たのしいムーミン一家』
(講談社、1965年12月◆278頁)
 ※復刻版、2015年7月◆282頁。

ざっと調べてみると、次のような版が見つかりました。

山室静訳『たのしいムーミン一家』
(講談社文庫、1978年4月◆242頁)

◯山室静訳『たのしいムーミン一家』
 (講談社青い鳥文庫、1980年11月◆261頁)

山室静訳『たのしいムーミン一家』
(講談社〈ムーミン童話全集2〉1990年6月◆278頁)

◯山室静訳『新装版 たのしいムーミン一家』
 (講談社文庫、2011年4月◆288頁)

◯山室静訳『たのしいムーミン一家 新装版』
 (講談社青い鳥文庫、2014年4月◆288頁)

山室静訳『たのしいムーミン一家』
(講談社〈ムーミン全集[新版]2〉2019年6月◆242頁)

◯印のを手に入れ、主に講談社青い鳥文庫(2014)で読み進めました。これが案外おもしろい。1・2作目もそれなりに楽しめましたが、3作目の充実度はそれをはるかに凌いで、世界中で話題になったのも肯ける心地よいお話でした。ごく最近(2019年)刊行されたムーミン全集[新版]では、訳文が大幅に改善されているとのこと、少し間をおいてから改めて挑戦しようと思います。

2022年10月24日月曜日

【読了】トーベ・ヤンソン著/冨原眞弓訳『小さなトロールと大きな洪水(新装版)』(講談社青い鳥文庫)

スウェーデン語系フィンランド人の作家トーベ・ヤンソン(Tove Jansson, 1914年8月9日~2001年6月27日)の小説『小さなトロールと大きな洪水』を、冨原眞弓(とみはらまゆみ。1954年1月‐)氏の翻訳で読みました。ムーミン・シリーズの第1作目に当たります。

本書は1945年にスェーデン語で『Småtrollen och den stora översvämningen(小さなとトロールと大きな洪水)』と題して出版されましたが、219部売れただけですぐに絶版になりました。再刊されたのは45年後の1991年のこと。この時、フィンランド語でも『Muumit ja suuri tuhotulva(ムーミンと大きな洪水)』と題して刊行されました。英語版は2005年に『The Moomins and the Great Flood(ムーミンと大きな洪水)と題して刊行されました。

※以上、ムーミンの公式サイト所載の「Introduction to Moomin Stories: The Moomins and the Great Flood, 1945」(2015年11月16日)【https://www.moomin.com/en/blog/introduction-to-moomin-stories-the-moomins-and-the-great-flood-1945/#773ec201】、および『小さなトロールと大きな洪水』(講談社青い鳥文庫、2011年9月)94~98に収録された富原真弓氏の「1999年2月15日 青い鳥文庫版への『訳者あとがき』」を参照しました。

日本では1992年にムーミン童話全集の別巻として、冨原眞弓氏の翻訳で講談社から出版されました。調べてみると、以下の5種が見つかりました。

冨原眞弓訳『小さなトロールと大きな洪水』
(講談社〈ムーミン童話全集 別巻〉1992年6月◆113頁)

冨原眞弓訳『小さなトロールと大きな洪水』
(講談社青い鳥文庫、1999年2月◆123頁)

◯冨原眞弓訳『小さなトロールと大きな洪水』
 (講談社文庫、2011年9月◆109頁)

◯冨原眞弓訳『小さなトロールと大きな洪水(新装版)』
 (講談社青い鳥文庫、2015年2月◆121頁)

冨原眞弓訳『小さなトロールと大きな洪水』
(講談社〈新版 ムーミン童話全集9〉2020年10月◆109頁)
 ※訳文に大幅な改訂あり。

とりあえず2011年刊行の講談社文庫と、2015年刊行の青い鳥文庫を手に入れました。初めて読むつもりでいたのですが、このブログ上(2013年10月12日)で一度読んでいたことを発見。すっかり忘れていました。9年前はファンタジー系にあまり慣れていなかったころに読んだからか、あまり印象に残らなかったようです。

その後『ナルニア国物語』の読破をきっかけとして、ファンタジーの世界に多少は馴染んできたので、今回は(もう忘れないくらい)印象深く最後まで読み進めることができました。短めなこともありますが、物語の道筋がはっきりしていて、まずまずの面白い作品でした。このまま、第3作『楽しいムーミン一家』に取りかかります。

2022年10月16日日曜日

【読了】トーベ・ヤンソン著/下村隆一訳『ムーミン谷の彗星(新装版)』(講談社青い鳥文庫)

スウェーデン語系フィンランド人の作家トーベ・ヤンソン(Tove Jansson, 1914年8月9日~2001年6月27日)の小説『ムーミン谷の彗星』を、下村隆一(しもむらりゅういち。1928年-1969年11月)氏の翻訳で読みました。ムーミン・シリーズの第2作目に当たります。

本書は1946年にスウェーデン語で『Kometjakten(彗星を追って)』と題して出版されました。1951年には英語版で『Comet in Moominland(ムーミン谷の彗星)』、1955年にはフィンランド語で『Muumipeikko ja pyrstötähti(ムーミン谷の彗星)』と題して出版。その後、1956年にスウェーデン語で第2版が出版される際に『Mumintrollet pa lometjakt(彗星を追うムーミントロール)』、1968年に第3版が出版される際に『Kometen kommer(彗星せまる)』と改題されました。

日本では、1969年1月にトーベ=ヤンソン全集(講談社)の第7巻として初めて紹介されました(下村隆一訳)。こちらは1968年出版の第3版『Kometen kommer(彗星せまる)』からの翻訳となっています。

※以上、ムーミンの公式サイト所載の「Introduction to Moomin Stories: Comet in Moominland, 1964」(2015年11月26日)【https://www.moomin.com/en/blog/introduction-to-moomin-stories-comet-in-moominland-1946/#773ec201】、および内山さつき氏のブログ「『ムーミン谷の彗星』改訂のためにトーベが本に書き込んだメモ」(2021年1月8日)【https://www.moomin.co.jp/news/blogs/79172】、および『新装版 ムーミン谷の彗星』(講談社文庫、2011年4月)241~243頁に収録された下村隆一氏の「1969年1月24日 初版への『解説』」を参照しました。


日本語版は(どれも下村訳ですが)次の7種見つかりました。

下村隆一訳『ムーミン谷の彗星』

(講談社〈トーベ=ヤンソン全集7〉1969年1月◆242頁)

下村隆一訳『ムーミン谷の彗星』

(講談社文庫、1978年10月◆210頁)

下村隆一訳『ムーミン谷の彗星』

(講談社青い鳥文庫、1981年2月◆221頁)

下村隆一訳『ムーミン谷の彗星』

(講談社〈ムーミン童話全集1〉1990年6月◆246頁)※ハードカバー

◯下村隆一訳『新装版 ムーミン谷の彗星』

 (講談社文庫、2011年4月◆256頁)

◯下村隆一訳『ムーミン谷の彗星 新装版』

 (講談社青い鳥文庫、2014年2月◆249頁)

下村隆一訳『ムーミン谷の彗星』

(講談社〈新版 ムーミン童話全集1〉2019年3月◆226頁)※ソフトカバー

今回はとりあえず、2011年刊行の講談社文庫『新装版 ムーミン谷の彗星』と、2014年刊行の講談社青い鳥文庫『ムーミン谷の彗星 新装版』を手に入れました。2つを比較するとほぼ同文ですが、漢字の使い方にわずかな違いがあり、青い鳥文庫(総ルビ)のほうが多めに漢字を使っていました。

青い鳥文庫を読み終えてから、ごく最近、2019年に刊行された〈新版 ムーミン童話全集〉では訳文を大幅に見直し、いっそう読みやすく改訂されていることを知りました。翻訳は新しいほうが読みやすいことが多いので、近々〈新版〉を手に入れようと思っています。ただ〈新装版〉の訳文もそれほど読みにくくはなく、安値で全巻手に入るのが魅力的。なので飽きるまではこのまま青い鳥文庫で読み進めようと思います。

当初はこのまま第3作目『たのしいムーミン一家』に進むつもりでいたのですが、『ムーミン谷の彗星』を読んでいて、登場人物や場面設定について何の説明もないまま、突然話が始まっていくところに違和感がありました。調べてみると、第1作目『小さなトロールと大きな洪水』を読み落としていたこと、そして何とこのブログで9年前に取り上げていたことに気がつきました(2013年10月12日)。しかし記憶からまったく消えているので、再読しようと思います。