2023年11月5日日曜日

【読了】ヴェルヌ著/私市保彦訳『二年間の休日』(十五少年漂流記)。近状も少し。

 今年からしばらく守りの経営になるはずが、ありがたいことに夏休み前から程よく問い合わせをいただき、休む間もなく対応に追われていました。

 お盆休みに、いずれ読もうと思って「積ん読」状態だった1冊、フランスの作家ヴェルヌ『二年間の休日(十五少年漂流記)』を手に取りました。ふだんは英語で書かれた本(の翻訳)を読むことが多いのですが、ヴェルヌのいくつかの傑作(『海底二万里』『十五少年漂流記』『神秘の島』)は例外。

 一時期、ヴェルヌの小説に独特な、専門用語を書き連ねた冗長な文章に辟易し、いっそ適当に編集した簡略版のほうが良いのかもと思い、程よい長さのものを集めてみました。が、実際手にしてみるとどうも違う。結局、最新の完訳版である私市保彦(きさいちやすひこ)訳『二年間の休暇』(岩波少年文庫)に落ちつきました。


ジュール・ヴェルヌ作
私市保彦(きさいちやすひこ)訳
レオン・ブネット挿絵
『二年間の休日 上・下』
(岩波少年文庫603・604、2012年2月◇349・349頁)

 完訳版は、手元に集英社文庫横塚光雄(よこつかみつお)訳、福音館文庫朝倉剛(あさくらかたし)訳、創元SF文庫荒川裕光(あらかわひろみつ)訳、偕成社文庫大友徳明(おおとものりあき)訳などが置いてありましたが、これらは途中で挫折。今回はじめて何の不満もなく、最後まで読み進めることができました。登場人物が十五人もいると、読んでいて誰がどう動いているのか、焦点が定まらなくなる傾向があるので、そこを乗り越えられるかどうかが分かれ目となります。今回は委細構わず5、6章一気に読み進めたら物語の雰囲気がつかめて、あとは最後まで楽しんで読み終えることができました。

ジュール・ヴェルヌ著
横塚光雄(よこつかみつお)訳
『十五少年漂流記』
(集英社文庫、ジュール・ヴェルヌ・コレクション、2009年4月◇542頁)
 ※もとは『二年間のバカンス ― 十五少年漂流記』(集英社文庫、ジュール・ヴェルヌ・コレクション、1993年9月◇542頁)と題して刊行。単行本の初出は『二年間のバカンス』(集英社コンパクト・ブックス、ヴェルヌ全集5、1967年12月◇373頁)。

ジュール・ベルヌ作
太田大八(おおただいはち)画
朝倉剛(あさくらかたし)訳
『二年間の休暇(上・下)』
(福音館文庫、2002年6月◇311・226頁)
 ※初出の単行本は、福音館古典童話シリーズ1(1968年4月◇525頁)。

ジュール・ヴェルヌ著
荒川浩充(あらかわひろみつ)訳
『十五少年漂流記』
(創元SF文庫、1993年8月◇465頁)

ジュール・ヴェルヌ作
レオン・ブネット挿絵
大友徳明(おおとものりあき)訳
『二年間の休暇(上・下)』
(偕成社文庫、1994年12月◇389・408頁)

 どうせなら今に至るまでの日本語への翻訳を調べておこうと思い、調べ始めたところ、とんでもない分量に驚かされました。大体のところまででも調べておこうと、整理した結果を次のブログから数回に分けて紹介していきます。

   ***

 平安時代「儀式書」研究は停滞気味です。特に誰からも請われない、締切のない原稿を、完成まで持っていく大変さを痛感中。今更焦っても仕方がないので、機が熟するまで放っておくことにしました。次に火がつくまで、たぶんそんなに時間はかからないと思います。

 先月ぼんやりと古書目録を眺めていたところ、神道大系の『江家次第』と『儀式・内裏式』が安く出品されているのに気がついて、すぐに購入しました。手元に届いてみると、2010年に閉校した東京のとある短大の図書館に所蔵されていたものでした。保存状態はあまりよくなかったのですが、元が豪華な装幀なので、研究で使い潰す分には問題ありません、

 これでようやく念願だった神道大系の朝儀祭祀編『儀式・内裏式』『西宮記』『北山抄』『江家次第』を手元に揃えることができました。故実叢書の『西宮記』『北山抄』『江家次第』、尊経閣善本影印集成の『西宮記』『北山抄』『江次第』、宮内庁書陵部本影印集成の『西宮記』と揃えて、大学図書館に入り浸るしかなかった学生時代を思えば夢のよう。

 残るは続神道大系の『侍中群要』と、尊経閣善本影印集成の儀式書の数々を。気長に揃えていきましょう。



2023年5月15日月曜日

【読了】P・L・トラヴァース著/林容吉訳『風にのってきたメアリー・ポピンズ』(原著1934年/邦訳1954年)

 オーストラリアで生まれ、イギリスで活躍した児童文学作家P・L・トラヴァース(Pamela Lyndon Travers, 1899年8月~1996年4月)氏が、35歳の時(1934年)に刊行された小説『メアリー・ポピンズMary Poppins)を読みました(*1)挿絵はメアリー・シェパード(Mary Shepard, 1909-2000)氏が担当。昨秋読んだA・A・ミルン(Alan Alexander Milne, 1982-1956)『くまのプーさんWinnie-the-Pooh)(1926年刊行)でも挿絵を担当されていたのは記憶に新しいところです。

(*1)『 Mary Poppins 』のイギリス版は1934年1月にジェラルド・ハウ社(Gerald Howe, London)から、アメリカ版は1934年11月にレイナル&ヒッチコック社(Reynal & Hitchcock, NewYork)から出版されました。

P・L・トラヴァース 著
林容吉(はやしようきち)訳
メアリー・シェパード 絵
『風にのってきたメアリー・ポピンズ』
(岩波少年文庫052、新版、2000年7月◇295頁)
 ※旧版は1954年4月。

 今回は、林容吉(はやし ようきち, 1912年10月~1969年12月)氏の翻訳で読みました。林訳は1954年4月に岩波少年文庫から風にのってきたメアリー・ポピンズという邦題で刊行されました。原著には『 Mary Poppins 』とあるだけなので、ほかの邦訳では『メアリ・ポピンズ』『メアリー=ポピンズ』『メリー・ポピンズ』『空からきたメアリー・ポピンズ』などの邦題が採用されています(*2)

(*2)林容吉訳のほかには次の①~⑤の邦訳が出ているようです。
 ①岸田衿子 訳/柏村由利子 絵『メアリ・ポピンズ』(河出書房新社〔少年少女世界の文学8〕1966年12月)所収。岸田訳は (a)『メアリ・ポピンズ』(河出書房新社〔世界文学の玉手箱9〕1993年1月)、および (b) 飯野和好 絵『メアリ・ポピンズ』(サンリオ・ギフト文庫、1976年6月)、および (c) 安野光雅 絵『メアリ・ポピンズ』(朝日出版社、2019年1月)として再録。岸田訳は全12話中第5・7話を省略〔(b・c) の目次を確認。初出訳と (a) は未見〕。

 ②恩地三保子 訳/山名冬児 絵『空からきたメアリー・ポピンズ』(偕成社、少年少女世界名作選19、1968年4月)。曽野綾子 訳/赤坂三好 絵『メアリー=ポピンズ』(学習研究社、少年少女世界文学全集17、1968年5月)所収。曽野訳は、赤坂三好 絵『メアリー=ポピンズ』(学研小学生文庫、1979年4月)として再録。大野芳枝 訳/森国とき彦 絵『空からきたメアリー・ポピンズ』(集英社、マーガレット文庫、1976年8月)。佐山透 訳/わたなべまさこえ 絵『メリー=ポピンズ』(少年少女講談社文庫、1978年11月)。


 林容吉訳はこの後、1965年12月に映画『メアリー・ポピンズMary Poppinsが日本公開されるのに合わせて(米国公開は1964年8月)1963年11月に第2巻『帰ってきたメアリー・ポピンズMary Poppins Comes Back, 1935)が、第1巻(『風にのってきたメアリー・ポピンズ』)と合冊で岩波書店から刊行されました(単行本)。続いて1964年12月には第3巻『とびらをあけるメアリー・ポピンズMary Poppins Opens the Door, 1943)が、1965年11月には第4巻『公園のメアリー・ポピンズMary Poppins in the Park, 1952)が、それぞれ岩波書店から刊行されました(単行本)

 林訳で紹介されたのはここまで。その後 1988年までに第5・6・7・8巻が刊行されたことは今回調べてみるまで知りませんでした。

 第5巻『メアリー・ポピンズ AからZ
        (Mary Poppins from A to Z, 1962)
 第6巻『台所のメアリー・ポピンズ
        (Mary Poppins in the Kitchen, 1975)
 第7巻『さくら通りのメアリー・ポピンズ
        (Mary Poppins in Cherry Tree Lane, 1982)
 第8巻『メアリー・ポピンズとお隣さん
        (Mary Poppins and the House Next Door, 1988)(*3)

(*3)邦訳を1冊ずつ挙げておきます。
 ⑤荒このみ 訳『メアリー・ポピンズ AからZ』(篠崎書林、1984年5月◇126頁)。⑥小宮由・アンダーソン夏代 訳『台所のメアリー・ポピンズ おはなしとお料理ノート』(アニマ・スタジオ、2014年11月◇112頁)。⑦荒このみ 訳『さくら通りのメアリー・ポピンズ』(篠崎書林、1983年12月◇90頁)。⑧荒このみ 訳『メアリー・ポピンズとお隣さん』(篠崎書林、1989年4月◇90頁)。


 さて肝心の内容ですが、これは大当たり。今から70年近く前の訳文なので、読み始めに少し違和感がありましたが、すぐに気にならなくなりました。メアリー・ポピンズの得難いキャラクターにしだいに惹き込まれ、最後は読み終わるのが惜しくなりました。「鳥のおばさん」「ジョンとバーバラの物語」そして「西風」の美しさといったら!

 よい読後感でしたので、少し時間をおいて第2巻『帰ってきたメアリー・ポピンズMary Poppins Comes Backも読んでみようと思います。 

2023年4月26日水曜日

【読了】佐藤さとる著『だれも知らない小さな国』(1959年刊行)

 童話作家 佐藤さとる(1928年2月-2017年2月)氏が、31歳の時(1959年3月)に発表された傑作ファンタジー小説『だれも知らない小さな国』を読みました。昔から書名は知っていましたが、子供のころは村上勉(むらかみつとむ 1943年- )氏の独特な挿絵に違和感があって、読んだことがありませんでした。ここ最近、外国のファンタジーだけでは物足りなくなって、日本で誰か面白い作品を書かれた方はいないのか探してみたところ、まず思い出されたのが佐藤氏の「コロボックル物語」でした。村上氏の挿絵も、今では味わいのあるものに思えて来たので、とりあえず1冊取り寄せて、読んでみることにしました。

 この作品は、佐藤氏が31歳の時(1959年3月)に私家版(自費出版)で100部刷られたのが初出(*)。すぐに講談社の編集者の目に止まり、同年8月に若菜珪(わかなけい 1921-1995)氏の挿絵、安野光雅(あんのみつまさ 1926-2020)氏のレイアウトで講談社から出版されました。私家版のほうは表紙画があるのみの簡単な作りですが、その表紙画は、佐藤氏自らの下図をもとに友人の画家 木下欣久(きのしたよしひさ)氏が仕上げたものだそうです(**)

(*)「佐藤さとる年表」(佐藤さとる公式WEB〔https://www.k-akatsuki.jp/〕)参照。
(**)函『【私家版復刻】だれも知らない小さな国』(コロボックル書房〔株式会社あかつき出版部〕2013年2月)の裏表紙を参照。

 村上氏が挿絵を担当するようになったのは、1965年9月に刊行された「コロボックル物語」の第3作目『星から落ちた小さな人』(講談社)からのことで、第2作目『豆つぶほどの小さな犬』(講談社、1962年8月)までは若菜氏が挿絵を担当されていました。1969年11月に「コロボックル物語」3冊をまとめて再刊する時に、第1・2作目の挿絵を村上氏のものに差し替えたようです(*)。若菜珪氏の挿絵による版も古本でなら手に入るので、いずれお目にかかりたい。

(*)神奈川近代文学館のホームページ上のパネル文学館「佐藤さとる『コロボックル物語』」掲載の「コロボックル物語 出版の歴史」を参照。それぞれの現物は未見。

 長く親しまれて来た作品なので調べ出すといろいろなバージョンの『だれも知らない小さな国』が出て来ますが、細かくはまた別の機会に取り上げます。今回手にしたのは 1980年11月に刊行された講談社青い鳥文庫です。総ルビではありませんが、やさしめの漢字にもフリガナを振ってあるので、小4くらいからなら読めると思います。

佐藤さとる(著)/村上勉(絵)
『コロボックル物語1 だれも知らない小さな国』
(講談社青い鳥文庫、1980年11月◇245頁)
 ※第85刷〔2012年9月〕

 実際に読んでみると、今から64年前の作品なので、はじめのうち文体が多少ぎこちなく感じられましたが、物語が進むにつれしだいに惹き込まれ、後半にかけて一気に読み進めることができました。あり得ないはずの小さな人々のお話が、あたかもごく身近なありふれた出来事のように上手く描き出されていると思いました。

 このほか次の2つのバージョンも現役で刊行されているようです。

佐藤さとる(著)/村上勉(絵)
『コロボックル物語1 だれも知らない小さな国』
(講談社文庫、2010年11月◇296頁)
 ※講談社文庫版の初出は1973年7月。

佐藤さとる(著)/村上勉(絵)
『新イラスト版 コロボックル物語1 だれも知らない小さな国』
(講談社、2015年10月◇296頁)

 現在までに刊行された様々なバージョンの『だれも知らない小さな国』については、うまく整理できたらまたこちらにアップします。

 良い読後感でしたので、ぜひ続巻も読んでみようと思います。

2023年4月19日水曜日

【読了】J・K・ローリング著/松岡佑子訳『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(1998年刊行)

 イギリスの作家J・K・ローリングJ.K.Rowling, 1965年7月~)氏が、1998年7月にイギリスのブルームズベリー出版社(Bloomsbury Publishing)から刊行された『ハリー・ポッターと秘密の部屋Harry Potter and the Chamber of Secretsを読みました。ハリーポッター・シリーズの第2巻です。昨年2月に第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石Harry Potter and the Philosopher's Stone』を読み終えて以来、1年2ヶ月ぶりのハリー・ポッターです。

 日本では松岡佑子(まつおかゆうこ、1943年9月~)氏の翻訳で、静山社から2000年9月に刊行されました。初版もまだ古本屋で安く手に入りますが、今回は新書サイズ(上下2分冊)で持ち運びしやすく、総ルビで誰にでも読みやすい《静山社ペガサス文庫》(2014年5月刊行)で読み進めました。ざっと見る限り、版を改めるたびに訳文に少しずつ手を入れているようなので、今購入するなら新装版(2019年11月)がベストなのかもしれません。

『ハリー・ポッターと秘密の部屋〈2-Ⅰ〉』
(静山社ペガサス文庫、2014年5月◇301頁)

『ハリー・ポッターと秘密の部屋〈2-Ⅱ〉』
(静山社ペガサス文庫、2014年5月◇261頁)

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
(静山社〔新装版〕2019年11月◇532頁)

 2巻目でハリー・ポッターの世界にようやく馴染んできた感じなので、すぐに次が読みたくなりました。数年前に読了した『ナルニア国物語』に似た雰囲気を感じます。取り敢えず、飽きが来るまでは気長に読み進めようと思います。

2023年4月15日土曜日

役員の引継終了。研究再開!

 昨年3月、ひょんなことから担当が回ってきた地元の区会計の仕事、先週末(4/9)で無事に引継を終えました。急にもう1つ、新しい会社の帳簿づけを任されたような感覚で、1年前はそんな無茶なと思いましたが、大きな穴を開けることなく、無事に決算書までたどりつくことができました。周りの方々のサポートに感謝。

 自治会は非営利団体なので、税金の心配がないのは気持ち楽でしたが、1人社長の会社よりは組織が複雑で、その分面倒な処理が必要となりました。帳簿を付ける上で「ちまたの会計」という無料のクラウド会計が大活躍しました。組織の規模にもよりますが、エクセルでは処理が追いつかない時に、お勧めのソフトです。

 2つの帳簿づけを溜め込んだら大変なことになるので、近年遅れがちになっていた自分の会社の帳簿(JDL)を月ごとにきっちりまとめて、慌てることなく第12期の決算までたどりつけたのは、良い副産物でした。自治会のお金の動かし方を間近で見られる機会はまずないので、得難い経験となりました。

 とはいえ、こと研究についていえば、細々と続けていた論文の執筆を一時中断せざるを得なかったのが大きな痛手。さすがに三足のわらじを履くことはできませんでした。幸い書く意欲は消えておらず、むしろ1年休んでしまった焦りのほうが大きくなっているので、ゴールデンウィークを目処に本格的に再開できるよう、頭を切り替えているところです。

 分厚いA4ファイル2冊分の決算書を並べて、修士論文をまとめ、博士論文に挑戦していた時の記憶がよみがえって来ました。本業に忙しい中、たくさんのデータを一気にまとめあげる感覚を取り戻せたのが、一番の収穫といえるのかもしれません。

 新年度を迎えて、気合を入れ直そうと、史料をいくつか購入しました。


宮内庁書陵部編
『図書寮叢刊 御産部類記 上・下』
(明治書院、昭和56年3月・57年3月)

宮内庁書陵部編
『図書寮叢刊 九条家本除目抄 上・下』
(明治書院、平成3年2月・4年2月)

吉田早苗校訂
『大間成文抄 上・下巻』
(吉川弘文館、平成5年2月・6年2月)

『御産部類記』は『西宮記』研究に必要なので。必要箇所はコピーしてありますが、この際手もとに置いておきたいと思い、古本で適価で購入しました。『九条家本除目抄』『大間成文抄』は古本でまずまずの安値で出ていたので、先々のことを思い購入。無事に『西宮記』研究がまとまった後の研究テーマに関わります。後は魚魯愚抄』の残り3冊(中巻、下巻之一・三)が残っています。