田中英道『「写楽」問題は終わっていない』
(祥伝社、平成23年12月)
田中英道さんの著書は、
『日本美術全史』(講談社、平成7年6月)以来のお付き合いです。
もともとは、西洋美術史が専門の方です。
西洋美術史でふつうに行なわれている研究方法を、
日本美術に当てはめたらどうなるか、という観点から、
たいへん興味深い研究成果を、数多く発表されています。
残念なのは、
西洋美術史の研究方法と、
日本美術史の研究方法に大きな溝があるからか、
また、田中さんの結論の多くが、
日本美術史の学会への批判にもなっているからか、
その説の多くが、
日本では無視に近い状況になっていることです。
そうした中で、
自説を著書にまとめて発表される
一貫した姿勢には日ごろから敬服しております。
田中氏は、10年程前に、
『実証 写楽は北斎である―西洋美術史の手法が解き明かした真実』
(祥伝社、平成12年8月)
を出版され、写楽は北斎であると主張されました。
過去の諸説をしっかり踏まえた上で、
説得力に富んだ論証を展開されており、たいへん感銘を受けました。
今回の著書は、
その後の研究動向を踏まえつつ、
改めて「写楽」=「北斎」説を主張されています。
前著のダイジェスト版としての役割も果たしているので、
こちらだけ読んでも、論旨は理解できると思います。
私は今のところ、
学説としてもっとも整合性の取れているのは、
田中説だと思っておりますが、
今後、田中説への本格的な批判が出てきたら
議論が活発化してとても面白いと思います。
学会が閉鎖的なのは、
日本に限らずあるものでしょうから、
これは仕方のないことなのかもしれませんが、
無視してしまうのはもったいないことだと思います。
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