2012年5月9日水曜日

【読了】岡崎久彦 『重光・東郷とその時代』


岡崎久彦 『重光・東郷とその時代』
(PHP文庫、平成15年9月。初出は平成13年6月)

岡崎久彦氏の日本政治外交史3部作、
4冊目を読み終わりました。

4・5冊目は、
昭和5年(1930)生まれの岡崎氏にとって
同時代史に当たります。

岡崎氏自らが記憶してきた事柄を、
学会の通説と折り合いをつけながら、
わかりやすく書き下ろしてあります。


昭和一ケタ世代の方々の記憶をたどり直すのは、
それ自体興味深いものがありますが、

記憶にひきずられるせいか、
時代全体を見通す眼に、
若干の甘さがあるように感じられました。


穏当な通史として
相当成功していることは確かですが、

民族系の方々のもつ歴史観の限界を
そのまま受け継いでいる点は、
注意する必要があると思います。


例えば、
甚大な被害を出すことが必定な中、
無謀な戦争に突入して行った政治的な責任について、

左翼の定式にしたがう必要は全くないのですが、

この叙述では、
一体誰にどのような責任があったのか
はっきりさせていないことが不満でした。


中川氏が具体的に責任を追求されていた
米内光政、山本五十六、近衛文麿についても、
若干の失政を指摘しつつ、

民族系の通説通り、
戦争を防ごうと尽力した人物の一人として描かれており、
それは違和感がありました。

近衛文麿の手記を、
そのまま史実として扱っているのも問題でしょう。


ゾルゲ事件についても触れているものの、
スパイによる日本国内における共産主義の工作が、
日本にどのような悪影響を与えたのか
という視点はほぼ欠落しており、

尾崎秀実が
近衛文麿のブレーンであったことすら
触れていないのも違和感がありました。


こうしたいくつかの問題はあるのですが、

岡崎氏の世代が書かれた
一般国民向けの概説として、

これをこえるものはほとんどないことも確かです。


さて最後の第5巻、
楽しんで読み進めたいと思います。

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