中丸美繪 著
『オーケストラ、それは我なり―朝比奈隆、四つの試練』
(中公文庫、平成24年4月。初出は平成20年9月)
指揮者朝比奈隆(明治41年〔1908〕生―平成13年〔2001〕没)の
評伝を読みました。
朝比奈氏の本格的な評伝は、今のところこの1冊のみです。
単行本で出たときに買いそびれていたので、
いずれ古本で手に入れようと思っていたのですが、
4月に中公文庫から出ることになったので、
早速手に入れて読んでみました。
私が朝比奈隆氏のことを知ったのは、
宇野功芳氏の著書を通じてでした。
大阪にコンサート詣でをかけられるほど、
金銭的な余裕もありませんでしたので、
1990年代に次々と発売された
大阪フィルとの新譜を楽しみながら聴いていくことで、
朝比奈ファンの一人となりました。
ですから、
1980年代以前のことは詳しく知る由もなく、
度々復刻される録音を聴いたりしながら、
少しずつ認識を深める程度でした。
中丸美繪(なかまるよしえ)氏による本書は、
生い立ちから、晩年の豊かな実りの時期をむかえるまでの、
朝比奈氏が歩いて来た93年に及ぶ長い道すじを、
ていねいに一つ一つ、絶妙なバランスで辿っており、
たいへん勉強になりました。
音楽的なことだけでなく、
朝比奈氏の人間的な側面について、
長所とともに、欠点にもきちんと触れている点がありがたく、
朝比奈氏の人物像について、
これまでより深く理解することができました。
プロのオーケストラを立ち上げ、
常にゆるやかな上昇のカーブを描きながら、
亡くなるまで54年の長きにわたり、
シェフとして運営し続けることの困難さは、
言語に絶するものがあったはずで、
明治人の頑固なまでの生き様に、
強い感銘を受けました。
中丸美繪氏の著書、初めて読みましたが、
先へ先へと読み進ませられる勢いのある文章で、
楽しく読み終えることができました。
書名のみ知っていた処女作
『嬉遊曲、鳴りやまず―斎藤秀雄の生涯』
もぜひ読んでみようと思います。
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