2015年9月16日水曜日

『古今和歌集』巻第十一 戀歌一 その1(469-498)

『古今和歌集』の恋の歌を読んでいきます。

本文は、
 西下経一校注
 『日本古典全書 古今和歌集』
 (朝日新聞社、1948年9月)
に従いました。

ただし、読みやすくするために、
句切れで改行し、句間を一字ずつあけました。
句切れは、
 佐伯梅友(さえきうめとも)校注
 『古今和歌集』
 (ワイド版 岩波文庫、1991年6月)
の解釈に従いました。

それでは、
まず最初の三十首(469-498)から。

☆印は個人的に共感できた歌です。
自身の理解を助けるために、
比較的わかりやすかった
お二人の解釈を併記しました。

【奥村釈】
 奥村恆哉(おくむらつねや)校注
 『新潮日本古典集成 古今和歌集』
 (新潮社、1978年7月)

【小町谷釈】
 小町谷照彦(こまちやてるひこ)訳注
 『古今和歌集』
 (ちくま学芸文庫、2010年3月。初出は旺文社文庫、1982年6月)


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◎古今和歌集巻第十一 戀歌一(その1)469-498

469
▽題しらず
◆讀人しらず
ほととぎす なくや五月の あやめぐさ
あやめもしらぬ こひもするかな

☆470☆
◆素性法師
おとにのみ きくの白露
よるはおきて ひるはおもひに あへずけぬべし
【奥村釈】
 菊の白露は、夜に置き、
 昼には日に照らされて消えてしまいます。
 私も、あなたの噂ばかりを聞く白露で、
 夜は起きて焦がれ明かし、
 昼は熱い胸の火にさいなまれて
 消え入ってしまいそうだ。
【小町谷釈】
 あなたの噂を聞くばかりで、
 菊の白露が夜に置き
 昼には日の光に当って消えてしまうように、
 夜は起きていて思いこがれ、
 昼は思いに堪えかねて死んでしまいそうだ。

471
◆紀貫之
吉野川 いはなみたかく 行く水の
はやくぞ人を 思ひそめてし

472
◆藤原勝臣
 白浪の あとなき方に 行く舟も
 風ぞたよりの しるべなりける

473
◆在原元方
おとは山 音(おと)にききつつ
相坂の 關のこなたに 年(とし)をふるかな

474
立ちかへり あはれとぞ思ふ
よそにても 人に心を おきつしらなみ

☆475☆
◆貫之
世の中は かくこそありけれ
吹く風の めにみぬ人も 戀しかりけり
【奥村釈】
 世の中というものが、
 かくも不思議なものであったとは。
 吹く風のように姿はまだ見ぬ人なのに、
 恋しい思いがいちずにつのる。
【小町谷釈】
 男女の間がらとは
 このようなものだったのだな。
 吹く風のように噂ばかりでまだ姿を見たこともない人でも、
 これほど恋しく思われるとは。

476
▽右近のむまばのひをりの日、むかひにたてたりける
 車のしたすだれより、女の顔のほのかに見えければ、
 よむでつかはしける
◆在原業平朝臣
見ずもあらず みもせぬ人の 戀しくば
あやなくけふや ながめくらさむ

477
▽返し
◆讀人しらず
しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ
思(おも)ひのみこそ しるべなりけれ

☆478☆
▽春日の祭にまかれりける時に、物見にいでたりける
 女のもとに、家をたづねてつかはせりける
◆壬生忠岑
かすが野の 雪まをわけて おひいでくる 草の
はつかに 見えし君はも
【奥村釈】
 春日野の残雪をおしわけて萌え出る若草のように、
 わずかに垣間見た、あの初々しいあなた!
【小町谷釈】
 春日野の雪間を分けて萌え出てくる若草のように、
 わずかに見かけたあなたよ。


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☆479☆
▽人の花つみしける所にまかりて、そこなりける人の
 もとに、のちによみてつかはしける
◆貫之
山ざくら 霞のまより
ほのかにも 見てし人こそ 戀しかりかれ
【奥村釈】
 山桜が霞を通して見えるように、
 あの日ほのかにお見受けしたあなたが、
 恋しくてなりません。
【小町谷釈】
 山桜を霞の間から見るように、
 ほのかに見かけたあなたが
 恋しくてたまりません。

480
▽題しらず
◆元方
たよりにも あらぬおもひの あやしきは
心を人に つくるなりけり

☆481☆
◆凡河内躬恒
はつ雁の はつかにこゑを ききしより
なか空にのみ 物を思ふかな
【奥村釈】
 あなたの声を、
 初雁の鳴く声のようにわずかに聞いたその時から、
 心が宙に浮いたようで、
 何ひとつ手につきません。
【小町谷釈】
 初雁の声のように、
 ほんのわずかに初々しいあの人の声を聞いてから、
 私はずっと恋の思いに取りつかれて、
 上の空になっていることだ。

482
◆貫之
あふことは 雲井はるかに
なる神の 音にききつつ 戀ひわたるかな

483
◆読人しらず
かたいとを こなたかなたに よりかけて
あはずば何(なに)を 玉のをにせむ 

☆484☆
ゆふぐれは 雲のはたてに 物ぞ思ふ
あまつ空なる 人をこふとて
【奥村釈】
 夕暮れになると、
 雲の果てを眺めてはもの思いにふけっている。
 天上に住むような、
 とても手の届かぬ人を恋しているので。
【小町谷釈】
 夕方になると、
 雲の果てを眺めながらもの思いにふけることだ。
 恋のかなたにいるような、
 あの貴いお方を恋い慕って。

☆485☆
かりごもの 思ひ乱れて 我こふと
いもしるらめや
人しつげずば
【奥村釈】
 刈り取った菰のように、
 心乱れて恋していると、
 あの人は知っていてくれるだろうか。
 それは望めまい。
 誰かが橋渡しをして伝えてくれなければ。
【小町谷釈】
 刈り取った菰のように、
 思い乱れて私が恋い慕っていると、
 あの人は知らないだろう。
 誰かがそれと知らせてくれなければ。

486
つれもなき 人をやねたく
白露の おくとはなげき ぬとはしのばむ

487
ちはやぶる かもの社(やしろ)の ゆふだすき
ひとひも君を かけぬ日はなし

☆488☆
わが戀は むなしき空に みちぬらし
思ひやれども 行く方もなし
【奥村釈】
 私の恋は、
 空いっぱいに満ちてしまったらしい。
 もはや思いを晴らそうにも、
 どこへも持って行く余地がない。
【小町谷釈】
 私の恋の思いは
 何もないはずの大空いっぱいになってしまったらしい。
 いくら思いを晴らそうとしても、
 そのやり場もないのだから。


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489
するがなる たごの浦浪 たたぬ日は あれども
君を こひぬ日はなし

490
ゆふづくよ さすやをかべの 松の葉の
いつともわかぬ 戀もするかな

☆491☆
あしひきの 山した水の
こがくれて たぎつ心を せきぞかねつる
【奥村釈】
 山陰の水は木隠れながら激しく流れる。
 人知れずわきたぎつ私の恋心も、
 堰きとめることなどできはしない。
【小町谷釈】
 山中の谷川の水は、
 木の間に隠れて早瀬となり激しく流れているが、
 私も心中のわき立つような恋の思いを
 押えかねていることだ。

492
吉野河 いはきりとほし 行く水の
おとにはたてじ
戀はしぬとも

493
たきつせの なかにも淀(よど)は ありてふを
などわが戀の 淵瀬(ふちせ)ともなき

494
山たかみ したゆく水の
したにのみ ながれてこひむ
戀ひはしぬとも

495
思ひいづる ときはの山の 岩(いは)つつじ
いはねばこそあれ
戀しき物を

☆496☆
人しれず おもへばくるし
紅の すゑつむ花の
色にいでなむ
【奥村釈】
 もう、人知れず
 恋い慕うのはやりきれない。
 この際紅花(べにばな)の色みたいに、
 はっきりと素振りに出してほしい。
【小町谷釈】
 心の中に思いを秘めて人知れず
 恋い慕っているのは、もうつらくて堪えられない。
 色鮮やかな紅花(べにばな)のように、
 思いをはっきりと表面に現してしまおう。

497
秋の野(の)の をばなにまじり さく花の
色にやこひむ
あふよしをなみ

☆498☆
わがそのの 梅のほづえに 鶯の
ねになきぬべき 戀もするかな
【奥村釈】
 庭の梅の木の高い枝で、
 鶯が鳴いた。
 私も声に出して泣けるほど、
 悲しい恋をしている。
【小町谷釈】
 わが家の庭の梅の梢で
 鶯が鳴くように、
 声をあげて泣き出してしまいそうな
 悲しい恋をしていることよ。


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30首のうち、
☆印を付したのは次の11首でした。
思っていたより多く残りました。

☆470☆
◆素性法師
おとにのみ きくの白露
よるはおきて ひるはおもひに あへずけぬべし

☆475☆
◆貫之
世の中は かくこそありけれ
吹く風の めにみぬ人も 戀しかりけり

☆478☆
▽春日の祭にまかれりける時に、物見にいでたりける
 女のもとに、家をたづねてつかはせりける
◆壬生忠岑
かすが野の 雪まをわけて おひいでくる 草の
はつかに 見えし君はも

☆479☆
▽人の花つみしける所にまかりて、そこなりける人の
 もとに、のちによみてつかはしける
◆貫之
山ざくら 霞のまより
ほのかにも 見てし人こそ 戀しかりかれ

☆481☆
◆凡河内躬恒
はつ雁の はつかにこゑを ききしより
なか空にのみ 物を思ふかな

☆484☆
ゆふぐれは 雲のはたてに 物ぞ思ふ
あまつ空なる 人をこふとて

☆485☆
かりごもの 思ひ乱れて 我こふと
いもしるらめや
人しつげずば

☆488☆
わが戀は むなしき空に みちぬらし
思ひやれども 行く方もなし

☆491☆
あしひきの 山した水の
こがくれて たぎつ心を せきぞかねつる

☆496☆
人しれず おもへばくるし
紅の すゑつむ花の
色にいでなむ

☆498☆
わがそのの 梅のほづえに 鶯の
ねになきぬべき 戀もするかな


まどろっこしいことは言いっこなしに、
歌意と対象しながら読んでいるうちに、
自分の中でピンとくるものがあった歌です。

考え尽くしたうえでの結論というわけではないので、
今後二転三転する可能性もあります。

自分で歌を詠む時の、
感性を磨くための密かな愉しみとしていきます。

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