2015年9月7日月曜日

【読了】トーランド著 『大日本帝国の興亡 1』(初出1970)

アメリカの戦史作家
ジョン・トーランド(1912.6-2004.1)の
著書『大日本帝国の興亡』に興味がわいていたところ、
都合よく新版で再刊されたので、読んでいきます。

夏前から読み出して、
最近ようやく1冊目を読み終えました。
よくこなれた訳文ですいすい読めます。


ジョン・トーランド著
毎日新聞社訳
『大日本帝国の興亡〔新版〕1 ― 暁のZ作戦』
(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2015年6月)

 ※初出は毎日新聞社、1971年6月。
  ハヤカワ文庫、1984年7月に再録。

原著は
著者58歳の時(1970.12)に出版されました

1,000頁近くの大著ですが、
Amazonで2,900円ほどで手に入るので、
近々購入しようと思っています。


John Toland
THE RISING SUN
― The Decline and Fall of the Japanese Empire 1936-1945.
New York : Random House, 1970.

原著の構成は、

 Part 1 ― The Roots of War
 Part 2 ― The Lowering Clouds
 Part 3 ― Banzai!
 Part 4 ― Isle of Death
 Part 5 ― The Gathering Forces
 Part 6 ― The Decisive Battle
 Part 7 ― Beyond the Bitter End
 Part 8 ―“One Hundred Million Die Together

の8部から成りますが、
日本語版・第1巻(新版)の「あとがき」をみると、

「日本語訳の出版に当たっては、
 著者の了解を得て、
 原著の構成から離れて、
 次の五巻に分けた。

 第一巻「暁のZ作戦」、
 第二巻「昇る太陽」、
 第三巻「死の島々」、
 第四巻「神風吹かず」、
 第五巻「平和への道」。」

とありますので(新版第一巻、400頁)、
原著とは構成を変えていることがわかります。

どのように変えたのか明示されていないので、
全体を読み終えてから詳しく比較してみようと思います。

第一巻は、

「二・二六事件を契機に
 日本は急速に軍国主義化への道を歩む。
 盧溝橋事件からやがて日華事変の拡大、
 ナチス・ドイツのヨーロッパ進攻に続いて、
 日米双方の努力もむなしく、
 日米開戦の危機が迫っていく
 ―開戦前夜までをまとめたもの」

だそうです(新版第一巻、400頁)。


  ***

書名はだいぶ前から知っていたのですが、

いかにも古めかしい書名だったので、
アメリカ側の一方的な視点から描かれた、
事実を無視した歴史ファンタジー小説なのだろうと勝手に想像していました。

しかし実際は、1970年において
筆者が入手可能な材料を網羅したうえで、

「史実をできるだけ忠実に復元する」ことを意図し、
真摯に取り組まれた太平洋戦争の通史であることを知りました。

実際に手に取ってみて、
44年前のものとは思えない、
良くこなれた読みやすい訳文で、
先へ先へとどんどん読み進めることができました。

冷静に考えて、
これだけ読ませる力のある太平洋戦争の通史は、
読んだ記憶がありません。

確かに今読むと、
部分的な間違いや、
違和感を覚える箇所もあります。

例えば、
「南京事件」を当然の事実として描いているのは、
今読めば明らかにおかしいのですが、

1970年の時点で、
アメリカ人の著者が参照しうる資料から、
穏当に描こうとすればこう書くしかないかな、と思いました。

個人的には、
何となく「南京事件」というのは、
日中戦争がもっと泥沼化してから、

先行きが不透明になって
自暴自棄な状況に陥ってから発生した事件

のように感じていたのですが、
時系列にそって並べてみると、

盧溝橋事件(1937.7)後間もなく、
同年12月に起こったとされていることに驚きました。

南京事件を契機にして、
日中戦争を通じて同様の虐殺事件が起こり続けたのであれば
わからなくもないのですが、

日中戦争が始まってすぐに、
後から取ってつけたかのように、
南京事件があったとされるのは、
違和感があることに気がつけたのは収穫でした。


事実認定の上で、
このレベルでの問題が他にもあるはずだと
想定しておく必要がありますが、

全体としてみれば、

読みやすくわかりやすい、見通しの利いた、
大人向けの太平洋戦争の通史として、よくできた1冊だと思いました。

すぐに第2巻に進みたいと思います。


※Wikipediaの「ジョン・トーランド」を参照。

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