2016年10月28日金曜日

【143冊目】Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn (PAR Level 3)

やさしい英語の本、通算143冊目は、
ペンギン・アクティブ・リーディングのレベル3(1200語レベル)の1冊目として、

アメリカの小説家
マーク・トウェイン(1835.11-1910.4)の
小説『ハックルベリー・フィンの冒険』を読みました。

著者49歳の時(1884.12)に出版された作品です
(イギリス版。アメリカ版は1885年2月)


Mark Twain
The Adventures of Huckleberry Finn

Retold by John Votaw
〔Penguin Active Reading Level 3〕
First Penguin Readers edition published 2000
This edition published 2008
13,826語

2011年9月に
マクミラン・リーダーズのレベル3
(600語レベル/8,621語)、

2014年11月に
オックスフォード・ブックワームズのステージ2
(700語レベル/6,180語)
で読んで以来、

3回目の『ハックルベリー・フィンの冒険』です。


  ***

やさしい英語で読むほか、
すでに翻訳でも読み終えているので、
難なく読み終えることができました。

今までで一番のボリュームですが、
全訳の重厚さを経験していると、
まだまだ物足りない印象でした。

『トム・ソーヤーの冒険』と比べると、
若干違った趣のある作品なのですが、

そこまで深入りするでもなく、
あっさりと読み終わっていました。

翻訳は読みやすさで選ぶのなら、
講談社青い鳥文庫の斉藤健一(さいとうけんいち)訳が一番です。


斉藤健一訳
『ハックルベリー=フィンの冒険(上・下)』
(講談社青い鳥文庫、1996年9月)

全訳でこれだけ違和感なくすらすら読めるものは他にないので、
最初に選ばれる場合はぜひ斉藤訳をお薦めしたいです。

正直なところ、
トム・ソーヤーより内容は濃いのですが、
構成が散漫として弱い印象があるので、

文章に勢いがないと途中で飽きが来て、
読み進めるのが苦痛になりかねません。

勢いのある斉藤訳で読んで初めて、
『トム・ソーヤーの冒険』をこえる傑作とする
文学史上の評価にも納得がいきました。

すでに絶版のようですが、
古本では安値がついています。


もう一人だけ上げるなら、
ちくま文庫の加藤祥造(かとうしょうぞう)訳が気になっています。


加藤祥造訳
『完訳 ハックルベリ・フィンの冒険』
(ちくま文庫〔マーク・トウェイン・コレクション1〕2001年7月)
 ※初出の単行本は架空社、1995年5月。

古本で単行本のほうを手に入れてみたところ、

会話文がよくこなれていることに感心し、
こちらで読んでも楽しいかもと思っています。

加藤氏ならではのこだわりを感じさせる分、
斉藤訳のあとでは多少くどそうな気もするのですが、
次に機会があれば、加藤訳に挑戦しようと思っています。


※第143冊目。総計1,260,170語。

2016年10月17日月曜日

【読了】C.S.ルイス著〔土屋京子訳〕『ナルニア国物語① 魔術師のおい』

北アイルランド生まれの小説家
クライブ・ステープルス・ルイス
(Clive Staples Lewis, 1898年11月29日生-1963年11月22日没)
の長編小説『魔術師のおい The Magician's Nephewを読みました。

全7巻からなる『ナルニア国物語』の1冊で、
著者56歳の時(1955年5月)に刊行されました


  ***

『ナルニア国物語』は、
瀬田貞二(せたていじ, 1916.4-1979.8)氏の
翻訳で長らく親しまれてきました。

今年の夏に古本屋で
全巻(7冊700円!)を手に入れて、
この機会に読んでみようと思っていたのですが、

9月に土屋京子(つちやきょうこ, 1956- )氏の
新訳が刊行されました。

読み比べてみるとさすがに旧訳から60年をへて、
土屋訳のほうがわかりやすい整った訳文でしたので、
新訳で読み進めることにしました。


瀬田訳と土屋訳には巻次に違いがあります。

瀬田訳は、
1966年5月から12月にかけて岩波書店から刊行されました
その際、もともとの出版順に番号がつけられていました。

◎瀬田貞二(せたていじ, 1916.4-1979.8)訳
ナルニア国ものがたり(瀬田訳)
 1『ライオンと魔女』
  (1950年10月英国、同年11月米国)⇒1966年5月刊行
 2『カスピアン王子のつのぶえ』
  (1951年10月英国、52年9月米国)⇒1966年7月刊行
 3『朝びらき丸 東の海へ』
  (1952年9月英国・米国)⇒1966年8月刊行
 4『銀のいす』
  (1953年9月英国、10月米国)⇒1966年10月刊行
 5『馬と少年』
  (1954年9月英国、10月米国)⇒1966年11月刊行
 6『魔術師のおい』
  (1955年5月英国、10月米国)⇒1966年9月刊行
 7『さいごの戦い』
  (1956年3月英国、9月米国)⇒1966年12月刊行

今回、土屋京子氏の新訳では7巻を出版順ではなく、
物語の時系列にそって並べ直してあります。

◎土屋京子(つちやきょうこ, 1956- )訳
ナルニア国物語(土屋訳)
 1『魔術師のおい』
  (1955年5月英国、10月米国)⇒2016年9月刊行
 2『ライオンと魔女と衣装だんす』
  (1950年10月英国、同年11月米国)⇒※2016年12月刊行予定。
 3『馬と少年』
  (1954年9月英国、10月米国)⇒※2017年3月刊行予定。
 4『カスピアン王子』
  (1951年10月英国、52年9月米国)⇒※2017年6月刊行予定。
 5『ドーン・トレッダー号の航海』
  (1952年9月英国・米国)⇒※2017年9月刊行予定。
 6『銀の椅子』
  (1953年9月英国、10月米国)⇒※2017年12月刊行予定。
 7『最後の戦い』
  (1956年3月英国、9月米国)⇒※2018年3月刊行予定。

土屋氏によると、

「著者C・S・ルイス自身がこの順番で
 七巻の作品が読まれるよう希望していたことから、
 現在、欧米で出版されている『ナルニア国物語』は
 この時系列順の列べかたが標準となっている」

そうです(文庫「訳者あとがき」321頁)。

そんなわけで最初に手にとるのは、
『魔術師のおい』と呼ばれる1冊ということになります。


  ***


C.S. ルイス著
土屋京子訳
『ナルニア国物語① 魔術師のおい』
(光文社古典新訳文庫、2016年9月)

初めて読んでみると、

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』や、
J・M・バリーの『ピーター・パン』を読んだ時のような、
独特な毒や、取っ付きにくさを感じることはなく、

常識的な感覚に彩られた
安心して読める子供向けの小説として、
すんなり読み進めることができました。

子供の頃にふと出会っていたら、
もっと大きな感動を味わえたはずですが、
今読んでもふつうに楽しめる内容でした。

ナルニア国創世の場面の状況描写が美しく、
(日本語だと多少まどろっこしい感じもあるので)
英語で読んだらどんなだろうと興味がわいて来ました。

圧倒的な感動とまではいかないのですが、
ぜひ続刊を読み進めたいと思いました。

2016年10月15日土曜日

【142冊目】William Shakespeare, Othello (PR Level 3)

やさしい英語の本、通算142冊目は、
ペンギン・リーダーズのレベル3(1200語レベル)の12冊目として、

イングランドの劇作家
ウィリアム・シェイクスピア
(William Shakespeare 1564.4-1616.4)の
悲劇『オセロー』を読みました。

推定執筆年は1603-4年、初版は1622年とされているので、
シェイクスピア40代初めの作品ということになります

※河合祥一郎『あらすじで読むシェイクスピア全作品』(祥伝社新書、2013年12月)38頁参照。


William Shakespeare
Othello

Retold by Rosalie Kerr 〔Penguin Readers Level 3〕
This edition first published by Pearson Education Ltd 2006
11,678語

ペンギンリーダーズのレベル3には、
シェイクスピアの戯曲が5冊収録されていました。

喜劇1冊(『夏の夜の夢』)と、
悲劇3冊(『リア王』『ハムレット』『オセロー』)
の計4冊のほか、

喜劇2作(『ヴェニスの商人』『夏の夜の夢』)と
悲劇2作(『ハムレット』『ジュリアス・シーザー』)
の計4作を手短にまとめた1冊があります。

7月からまとめて読んできた最後の残るのが『オセロー』です。
これだけは一度も観たことも読んだこともなかったので、
後回しになっていました。

  ***

初めて『オセロー』を読む前に、
取っ掛かりになるものを探したところ、

1952年に製作された
オーソン・ウェルズ(Orson Welles, 1915.5-1985.10)
監督、脚本、主演による映画が廉価で手に入ることを知り、
まずこれを観てみることにしました。



これが大正解。

60年以上前に撮られたとは思われない、
今観ても古さを感じないセンス溢れる演出で、
飽きる間もなく感動のうちに観終えることができました。

オーソン・ウェルズで観たことがあるのは
『市民ケーン』と『ジェイン・エア』と『リア王』だけですが、
初めて凄い俳優だと思いました。

大人向けの漫画版はまだ出ていないので、
手早く『オセロー』の魅力を知りたい方には、
オーソン・ウェルズ監督・脚本・主演の映画をお薦めします。


  ***

それから読みやすい翻訳も探しましたが、

普段から一番読み慣れている
河合祥一郎訳も安西徹雄訳も出ていなかったので、

新潮文庫の福田恆存訳、
白水uブックスの小田島雄志訳、
ちくま文庫の松岡和子訳を読み比べた結果、

松岡訳を気に入り、購入して読了しました。


松岡和子訳
『オセロー』
(ちくま文庫〔シェイクスピア全集13〕2006年4月)

松岡訳は『夏の夜の夢』や
『ロミオとジュリエット』などの比喩的な表現では、
今ひとつ詩情に乏しいように感じられたのですが、

『オセロー』には
夢見るような詩的表現がほとんどないからか、
平易なよくわかる文章で、難なく読み通すことができました。


  ***

ここまで下準備をしておいたので、
やさしい英語でも苦労せず、すらすら読み通すことができました。

悲劇は本来苦手なはずなのですが、
シェイクスピアの悲劇は、

人の心の毒となる部分に深く切り込みながら、
ひたすらどこまでも真っ黒に塗りつぶしてしまうわけではなく、

どこかで人の心の正しい側面を信じているところがあるので、
全体として深い感動を覚えます。

愛するがゆえの嫉妬、
出世欲からの恨み、妬み、
他人を騙して追い落としたいと願う心といった、
誰の心にも潜んでいる(けれどもふだんはあまり見えない)
嫌らしく醜い側面と向き合う機会をくれる作品
といえるのかもしれません。


※第142冊目。総計1,246,344語。

2016年10月12日水曜日

【読了】ユン・チアン&ジョン・ハリディ著『真説 毛沢東(上)』

中華人民共和国出身、イギリス在住の著作家
ユン・チアン(張戎 1952.3- )氏と、

イギリス在住のロシア史研究家
ジョン・ハリディ(John Halliday)氏の共著による

毛沢東(1893.12-1976.9)の評伝
“MAO The Unknown Story”の翻訳
『真説 毛沢東 誰も知らなかった実像(上)』を読みました。

2005年に土屋京子(つちやきょうこ)氏の翻訳で出版された
『マオ 誰も知らなかった毛沢東(上)』を改題のうえ再刊したものです。


ユン・チアン&ジョン・ハリディ共著
土屋京子(つちやきょうこ)訳
『真説 毛沢東 誰も知らなかった実像(上)』
(講談社α文庫、2016年6月)

 ※下巻末の追記に、
 「この本の原著“MAO The Unknown Story”が出版されたのは、二〇〇五年六月でした。その後、著者が原著のところどころに加筆、削除、修正をほどこし、現在、著者の意向を最も正確に反映しているのはヴィンテージ・ブックスから二〇〇七年に出された版です。/今回、単行本『マオ 誰も知らなかった毛沢東』を講談社+α文庫から『真説毛沢東 誰も知らなかった実像』として出版しなおす機会に、最新版の “MAO” にもとづいて、日本語の訳文も数十ヵ所の加筆、削除、訂正をおこないました。/二〇一六年五月  土屋京子」
 とある(下巻705頁)。

2005年に単行本が出た時に、
ぜひ読もうと思って手に入れたのですが、
1100頁(562頁+556頁;単行本)を超える大著に、
いずれ時間ができたらと躊躇しているうちに10年過ぎていました。

今回、せっかく再刊されたので、
文庫なら取っ付きやすくて良いかもと手に取って、
読み出してみたところ止まらなくなり、
そのまま上巻を読み終えていました。

まだ下巻が残っていますが、
文庫の上巻だけで773頁もあったので、
途中で挫折しないようにブログにアップしておきます。

参考までに上巻の章立てをまとめておきます。

第1部 信念のあやふやな男
 第1章 故郷韶山を出る
     1893-1911年★毛沢東誕生-17歳
 第2章 共産党員となる
     1911-20年★毛沢東17-26歳
 第3章 なまぬるい共産主義者
     1920-25年★毛沢東26-31歳
 第4章 国民党内での浮沈
     1925-27年★毛沢東31-33歳

第2部 党の覇権をめざして
 第5章 紅軍を乗っ取り、土匪を平らげる
     1927-28年★毛沢東33-34歳
 第6章 朱徳を押さえこむ
     1927-30年★毛沢東34-36歳
 第7章 さらなる野望、妻の刑死
     1927-30年★毛沢東33-36歳
 第8章 血の粛清で「主席」へ
     1929-31年★毛沢東35-37歳
 第9章 中華ソビエト共和国
     1931-34年★毛沢東37-40歳
 第10章 逆風の中で孤立する
     1931-34年★毛沢東37-40歳
 第11章 長征から外されかける
     1933-34年★毛沢東39-40歳
 第12章 長征(一)蒋介石の心算
     1934年★毛沢東40歳
 第13章 長征(ニ)黒幕として実権を握る
     1934-35年★毛沢東40-41歳
 第14章 長征(三)モスクワを独占する
     1935年★毛沢東41歳

第3部 権力基盤を築く
 第15章 劉志丹の死
     1935-36年★毛沢東41-42歳
 第16章 西安事件
     1935-36年★毛沢東41-42歳
 第17章 「共匪」から国政へ
     1936年★毛沢東42-43歳
 第18章 新しいイメージ、新しい生活、新しい妻
     1937-38年★毛沢東43-44歳
 第19章 戦争拡大の陰に共産党スパイ
     1937-38年★毛沢東43-44歳
 第20章 抗日より政敵排除・蒋介石打倒
     1937-40年★毛沢東43-46歳
 第21章 中国の分割を望む
     1939-40年★毛沢東45-46歳
 第22章 新四軍を死の罠にはめる
     1940-41年★毛沢東46-47歳
 第23章 恐怖の力で基盤を固める
     1941-45年★毛沢東47-51歳
 第24章 王明に毒を盛る
     1941-45年★毛沢東47-51歳
 第25章 中国共産党最高指導者
     1942-45年★毛沢東48-51歳

第4部 中国の覇者へ
 第26章 「革命的阿片戦争」
     1937-45年★毛沢東43-51歳
 第27章 ソ連軍がやってくる!
     1945-46年★毛沢東51-52歳
 第28章 ワシントンに救われる
     1944-47年★毛沢東50-53歳
 第29章 スパイ、裏切り、私情で敗れた蒋介石
     1945-49年★毛沢東51-55歳
 第30章 中国征服
     1946-49年★毛沢東52-55歳
 第31章 共産中国ただひとりの百万長者
     1949-53年★毛沢東55-59歳


毛沢東(1893-1976)の人生を
幼いころから順にたどっているのですが、
細かな歴史的事実を丹念に考証していくというよりは、

毛沢東の人生について大枠を語りながら、
中国の近現代史の大きな流れを、
改めて語り直そうとする意図があるようで、

ソ連から中国への影響を紐解きつつ、
この時期の中国史を俯瞰できるように描かれていて、
たいへん勉強になりました。

個人的に興味深かったのが、
ソ連時代のスパイ関係の史料を用いて、
中国共産党の成立にソ連がどのように関与していたのか、
相当踏み込んで言及しているところです。

ソ連あってこその中国共産党、
ソ連あってこその毛沢東であったことが、
具体的にかなりよくわかるように描かれているので、

今も現役の中国共産党にとって、
確かに本書の存在はまずいのだろうと感じました。

史料の扱い方をみると、
小説家ががんばってどうにかなるレベルでは全くないので、
ロンドン大学キングス・カレッジの前上級客員特別研究員であった
ロシア研究家ジョン・ハリディ氏の研究によるところが大きいように思われました。


ソ連の傀儡としての東ヨーロッパに対応する存在として、
ソ連の傀儡としての中華人民共和国があると考えると、

ヨーロッパにおいては
一番の毒牙であった独裁者ヒトラーが倒されたのに対して、

東アジアにおいては、
人を殺すことにかけてはヒトラーも真っ青なレベルの
毛沢東が生き残ったまま戦後を迎え、
彼を支えた中国共産党はいまだに現役であるという。

この現状は、
ヒトラーがスターリンと手を結んで、
ヨーロッパの大半を占領したまま戦後を生きのび、
今なおナチス党が現役で活躍するヨーロッパを想像したらよいでしょう。

そんな大きな視点を与えてくれている点で、
私にとってとても重要な1冊になりそうです。


なお本書にはほとんど言及されていませんが、
ソ連のスパイは当然、同じくらいの頻度で
日本にも関与していたはずなので、

日本の近現代史において、
ソ連のスパイがどのように関与していたのか、
ソ連時代の史料を用いれば、
まだまだ研究の余地があるように思われました。

でもしかし、
ロシア語と中国語と英語と日本語に堪能な、
思想的な偏向のない歴史の研究者というのは、
日本ではほぼありえない前提なのかもしれません。

そんな感想を抱きつつ、
下巻へと進みます。


※Wikipediaの「ユン・チアン」「ジョン・ハリディ」を参照。