イギリスの小説家
ラドヤード・キップリング(1865.12-1936.1)の
小説『ジャングル・ブック』を読みました。
キップリング29・30歳の時(1894・95)の作品です。
もとは
『ザ・ジャングル・ブック』(1894)
『ザ・セカンド・ジャングル・ブック』(1895)
の2巻からなる作品ですが、
完訳は西村孝次氏によるものがあるのみで、
他はすべて、
狼に育てられたモウグリ少年についての章のみを集めて翻訳してあります。
ラドヤード=キップリング著
岡田好惠(おかだよしえ)訳
『ジャングル・ブック』
(講談社青い鳥文庫、平成13年11月)
※原作から「モウグリがでてくる物語だけを集めて訳し、
一冊にまとめ」てある(岡田訳 357頁)。
〔講談社青い鳥文庫版の章立て〕
第1章 モーグリ、オオカミの子となる
第2章 ニシキヘビ、カーの狩り
第3章 トラよ、でてこい!
第4章 ジャングル、〈恐れ〉を知る
第5章 ジャングル、村をのむ
第6章 王さまの象突き棒
第7章 赤イヌ
第8章 春を走る
・『ザ・ジャングル・ブック』(1894)
1「モーグリ、オオカミの子となる」→【第1章】
2「ニシキヘビ、カーの狩り」→【第2章】
3「トラよ、でてこい!」→【第3章】
4「白アザラシ」
5「リッキ=ティッキ=タービ」
6「ゾウのトーマイ」
7「女王さまの召し使い」
・『ザ・セカンド・ジャングル・ブック』(1895)
1「ジャングル、〈恐れ〉を知る」→【第4章】
2「ブルーン=バガットの奇跡」
3「ジャングル、村をのむ」→【第5章】
4「死体を処理するものたち」
5「王さまの象突き棒」→【第6章】
6「幽霊イヌ」
7「赤イヌ」→【第7章】
8「春を走る」→【第8章】
はじめは金原瑞人氏の翻訳で読むつもりだったのですが、
ところどころ言葉のつながりを欠くところがあって、
流れが途切れがちな印象でした。
半分読み終えたあたりで、
偶然手に入れた岡田好恵氏の翻訳を読んでみたところ、
金原訳はもとより、
木島始氏、西村孝次氏の翻訳と比べても、
誰にでも読みやすい、
よくこなれた現代の言葉で訳されていましたので、
岡田訳に切りかえ、改めて読み直すことにしました。
***
モウグリの物語だけではありますが、
全体を読み終えての感想です。
岡田訳はどこも読みにくくなかったのですが、
それでも
ところどころ違和感を覚えながら、
立ち止まりつつ読了することになりました。
その違和感とは、
まだ確実にはつかみきれていないのですが、
キップリングのジャングルへの認識、
そこに生きる動物たちへの認識に対して、
少なからず違和感を覚えたように思います。
インドで生まれ育った点、
ふつうのイギリス人よりも、
ジャングルで生きる動物たちについて
色々知る立場にいたことは確かですが、
実際ジャングルに分け入って、
5年10年と動物たちが身近にいる環境で、
命の危険と隣り合わせに生きてきた上で、
自らの豊富な経験をもとに書かれた作品だとは
とても思えませんでした。
現実のジャングル
現実の動物たちとの乖離(かいり)が、
今読むと作品としての弱さを感じさせる
少し残念な結果となっているように思いました。
***
手元にある他の翻訳を、
章立てとともに紹介します。
ラドヤード=キップリング著
金原瑞人(かねはらみずひと)訳
『ジャングル・ブックⅠ・Ⅱ』
(偕成社文庫、平成2年7月)
※こちらも原作から、
モウグリが出て来る8章を選んで訳してあります。
番外編として、
『ザ・ジャングル・ブック』(1894)の刊行前に発表された、
モウグリが出て来る中編「ラクにて」(1893)を収録してあります。
〔偕成社文庫版の章立て〕
第1章 モウグリの兄弟たち
第2章 カー登場
第3章 トラよ、トラよ!
第4章 恐怖のはじまり
第5章 ジャングル、村をのむ(以上、Ⅰ部)
第6章 死の棒(以下、Ⅱ部)
第7章 赤犬
第8章 春をかける
番外編 ラク(ジャングル)にて
・『ザ・ジャングル・ブック』(1894)
1「モウグリの兄弟たち」→【第1章】
2「カー登場」→【第2章】
3「トラよ、トラよ!」→【第3章】
4「白いオットセイ」
5「リッキ・ティッキ・ターヴィ」
6「象使いのトゥーマイ」
7「女王陛下の召し使い」
・『ザ・セカンド・ジャングル・ブック』(1895)
1「恐怖のはじまり」→【第4章】
2「プルン・バガートの奇跡」
3「ジャングル、村をのむ」→【第5章】
4「死体ひきうけ人たち」
5「死の棒」→【第6章】
6「キケルン」
7「赤犬」→【第7章】
8「春をかける」→【第8章】
※2・4・6の章題の翻訳は、
木島訳掲載の訳に従った。
ラディヤード・キップリング著
木島始(きじまはじめ)訳
『ジャングル・ブック』
(福音館書店、昭和54年7月)
※原作から「モーグリが主人公になった物語と詩のぜんぶを、
訳したものです。」(木島訳 476頁)
〔福音館書店版の章立て〕
第1章 おおかみのなかまいり
第2章 カーの狩り
第3章 恐れのあらわれかた
第4章 赤い花
第5章 とら! とら!
第6章 ジャングルのなだれこみ
第7章 王さまのぞう突き棒
第8章 赤犬
第9章 春に駆ける
・『ザ・ジャングル・ブック』(1894)
1「おおかみの兄弟たち」→【第1・4章】
(第1章「おおかみのなかまいり」・第4章「赤い花」と改題)
2「カーの狩り」→【第2章】
3「とら! とら!」→【第5章】
4「白あざらし」
5「リッキ・ティッキ・タービ」
6「ぞうつかいトゥーマイ」
7「女王の召使」
・『ザ・セカンド・ジャングル・ブック』(1895)
1「恐れのあらわれかた」→【第3章】
2「プルン・バガートの奇跡」
3「ジャングルのなだれこみ」→【第6章】
4「死体ひきうけ人たち」
5「王さまのぞう突き棒」→【第7章】
6「キケルン」
7「赤犬」→【第8章】
8「春に駆ける」→【第9章】
ラドヤード・キプリング著
西村孝次(にしむらこうじ)訳
『ジャングル・ブック』
(角川文庫、昭和47年7月。改版、平成7年2月)
※初出は『世界少年少女文学全集 第5巻イギリス編3』創元社、昭和28年。
上巻『ザ・ジャングル・ブック』(1894)のみの全訳です。
〔角川文庫版の章立て〕
1「モーグリの兄弟」
2「カーの狩り」
3「虎! 虎!」
4「白あざらし」
5「リッキ・ティッキ・ターヴィ」
6「象トーマイ」
7「女王さまの召使たち」
※西村孝次氏による
下巻『ザ・セカンド・ジャングル・ブック』も含んだ全訳が、
『学研世界名作シリーズ5 ジャングル・ブック』
(学習研究社、昭和49年)
『学研世界名作シリーズ6 続ジャングル・ブック』
(学習研究社、昭和49年)
として出ており、これが唯一の全訳ですが、高価なので未見です。
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