2011年11月5日土曜日

松原泰道 『釈尊のことば 法句経入門』 三章(上)


松原泰道『釈尊のことば 法句経入門』
(祥伝社新書、平成22年3月。初出は昭和49年)より。

※印は栗木によるコメントです。


三章 滅諦―心を安らげる知恵

私たちは、前二章において、
 『人生は苦である』との真理『苦諦』と、
 その苦の原因は『無常と執着による』との真理『集諦』を
 学習しました。

 それは病気に喩えるなら、
 病状と病原を知ることでした。

 病状と病原とが的確に把握できれば、
 必要な対応処置がとれます。

 しかし現状の苦痛がはなはだしいときは、
 “痛み止め”の処置が必要でありましょう。

 それが、これから学習する『滅諦』の章です。
」136


※第一章において、
 苦とはいかなるものであるのか、
 その真理「苦諦」について学びました。

 第二章において、
 苦の原因となるものは何か、
 その真理「集諦」について学びました。

 第三章において、
 苦をやわらげるためにはどうしたらよいのか、
 その真理「滅諦」について学びます。


滅諦は『無常観の炎を静め、
 執着を抑えることが安らぎである』
 との沈静の真理です。
」137

※この言葉の真意は、
 まだよくつかみそこねています。
 先に進んでから、
 もう一度ここに戻って来たいと思います。



わが身を
 泡沫(うたかた)のごとく
 陽炎(かげろう)のごとしと
 うなずくものは
 愛欲の魔の放(はな)つ花の矢を
 打ちおとし
 死王(しおう)の力の及ばざる領域に
 いたらん
』(一七〇)136

※ただひとりこの世に生まれ落ち、
 さまざまな悪に引き寄せられつつ生きるしかない、
 わが身の喩えようのない寂しさ(無常感)を、

 この世の真理(無常観)として、
 受け入れることができる者は、
 平穏な心を手にすることができる。

 松原さんの解釈に助けられながら、
 こんな風に読んでみました。


※しかし無常観を楽しむ境地というのは、
 それなりに自分自身で、
 人の世の苦しみ、悲しみを受け止めて、
 あの時死ななくて良かったな、
 と思えるような人生の経験を、
 その人なりに乗り越えてみてはじめて、
 見えてくるものであるように思います。

 無常観?
 なんだそれ?

 と笑い飛ばしたまま、
 一生終わっていたら、
 それが一番楽なのかもしれませんが、
 たぶんそれは余りないことではないでしょうか。



わが愚かさを
 悲しむ人あり
 この人
 すでに愚者にあらず
 自(みずか)らを知らずして
 賢(かしこ)しと称するは
 愚中の愚なり
』(六二)143

※みずからの愚かさを嘆きながらも、
 卑下することなく受け入れて、
 日々精進できる人は、
 愚かな人ではない。

 どれほど学力があっても、
 自分のことを自分で賢い、
 と思える者は、
 よほどの愚か者である。 

 こんな風に読んでみました。
 これはそのまま、異論なく理解できます。

※自分はなんて愚かなんだろう、
 という嘆きがなければ、
 少しでも向上したい、
 と思って精進し続ける自分もいないわけです。

 しかし割りとよくありがちなのが、
 愚かな自分に甘えて、
 どうせ自分は馬鹿だから、と
 一切の努力を止めてしまうことです。

 無気力からは何も生まれません。

 私は愚かだから、
 日々精進しなければならない。

 ここに自分の心を持っていけるように
 できるか、できないかが、大きな分かれ目です。



愛欲に溺(おぼ)れず
 憎しみを好まず
 善悪ともにとらわれざる
 こころ豊かなる人に
 悩みあることなし
』(三九)149

※愛欲に溺れてしまうのが人間です。
 愛欲に限りのないことを覚りきれるか。

 誰かを憎んでしまうのが人間です。
 誰をも憎まない心境を手に入れることができるか。

 表面の善悪に囚われやすいのが人間です。
 一時の善悪に囚われないで物事を見つめられるか。

 中道観(適正な心)を手にした人に、
 悩みはない。

 こんな風に読んでみました。



法(おしえ)に親しむものは
 眠り安らかなり
 こころは
 楽しく清らかなり
 ほとけの説きし法(おしえ)の中に
 知恵の眼は
 おのずと聞くなり
』(七九)154

※ほとけの説きし法、
 については第四章で語られるので、
 ここの一句は未解決のまま、
 次に進まざるを得ません。

 ただし、
 苦について真剣に向き合うのは、
 日々安らかで、楽しく清らかな心を手に入れたい、
 と願うからで、

 そのための
 釈尊による類まれな分析が
 仏教というものの本質で、
 ここに奇跡はなく、また
 オカルト的な要素もありません。

 徹頭徹尾冷めた目で、
 人の心を見つめる厳しい眼差しが、
 ここにはあります。

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