2012年1月28日土曜日

【読了】中川八洋 『山本五十六の大罪』

中川八洋氏の著作、
次は『山本五十六の大罪』を読みました。
これは第一章のみ読んで、その後、
「積ん読」状態になっておりました。



中川八洋
『〈連合艦隊司令長官〉山本五十六の大罪
  ― 亡国の帝国海軍と太平洋戦争の真像 ― 』
(弓立社、平成20年6月)


これもまた、
中川氏の他の著作に似て、
書名が内容の一部しか表しておりません。

論点が多岐にわたるため
うまく整理しにくいのですが、


第一章では、
海軍大臣、内閣総理大臣を歴任した
米内光政の批判的検討を行い、米内の、
大東亜戦争に関する三つの「罪」をまとめています。

第二章では、
近衛文麿の情報工作員として、
「第二昭和研究会」を通じて
海軍内の赤化洗脳工作を行った、
高木惣吉の動向について検討しています。


第一・二章で取り上げられた
米内光政と高木惣吉については、
これまで特に注目して来なかったので、
先入観なく読み進めることができました。

それぞれ一書にまとめてもよい内容を
二章に凝縮してあるので、

二人の略歴等について
ある程度、基礎的な知識がないと、
難しく感じるかもしれません。


第三・四章では、
山本五十六が、連合艦隊司令官として、

その全責任を負う作戦として、
 パール・ハーバー奇襲(戦果ゼロ)、
 ミッドウエー海戦(大敗北)、
 ガダルカナル島攻略戦(大敗北)
の三つを取り上げ、

その他の作戦も含めた、
多角的な検討を行なっています。

なお、
海軍出身者の戦後の著述に、
虚偽・捏造が多いことを指摘し、
主なものを一覧表にしてあるので、
今後の勉強にたいへん役立ちます(本書137頁)。


山本五十六についても、
あまり詳しいことは知らなかったので、
先入観なく、興味深く、読み進めることができました。

日清戦争や日露戦争と比べて、
果たして同じ国の軍隊なのだろうか、
と思うほどの、作戦の稚拙さを感じます。

これもまた、本来ならば、
一書にまとめるにふさわしい内容を
二章に凝縮してあるので、
論証過程には多少の荒っぽさが見受けられますが、
とても興味深く読むことが出来ました。


第五章では、
「特攻」作戦の批判的検討を行なっています。

戦争で使用される兵器と、
戦争で遂行される作戦は、

「生還の確率50%」が
軍隊の護るべき絶対基準であるにもかかわらず、

「生還の確率0%」を前提とした
「特攻」の兵器生産/制度化/作戦を遂行した、

海軍の責任について考察しています。


日本国に殉じた若き特攻隊員の、
偉大な勇気と自己犠牲の美徳に
最大限の感謝と慰霊の気持ちを保ちつつも、

冷酷非情な「特攻」作戦そのものは、
国家が決して選択してはならない、
非人道的な作戦であり、

その作戦を遂行した責任を追求することは、
当然のことだと思います。

議論の基本的な方向性をつかむ上で、
とても参考になりました。


第六章では、大東亜戦争という、

アジアの共産化(東亜新秩序・大東亜共栄圏)を目指し、
日本の「国益」を無視した、国家叛逆の戦争を行った結果、

日本国という自らの祖国全土を戦火に荒廃させ、

 二百五十万人(おそらく実数は三百万人)を越える
 若い勇者の命を奪い、

 さらに六十万人の一般邦人に死を与え、
 日本を亡国の淵に追いやり、

 そればかりか
 固有の領土(樺太、国後・択捉・得撫島以北の千島列島)
 をソ連に貢ぎ、

 満州という(安全保障上/経済上の)無尽蔵の権益を
 中国共産党に貢ぎ、

 そればかりか
 国家の栄光に輝く軍隊や
 偉大なる明治憲法その他の由緒正しき制度を跡形もなく
 破壊・蕩尽した。」(本書、217頁)

その責任の所在を明らかにしています。

負けた戦争を、
評価するわけにはいかない、

というのが私(栗木)の基本的な立場です。

左翼のように意図的な虚偽があるのは論外ですが、
開きなおって我々は正しかったのだ、という
民族系の立場にも違和感があります。

中川氏の一連の研究で、
ようやく今後、大東亜戦争を学ぶ上での
基本的な座標軸が得られたと思っています。



第七章では、
大東亜戦争の最終章として、

1945年8月の満州におけるソ連軍の侵略・蛮行と、

「シベリア百万人拉致・殺害・重労働・洗脳事件」
と呼ぶべき「シベリア抑留」に至る過程について、

日本側の通謀者の問題とからめつつ検討しています。


「シベリア抑留」の実数については、
2000年前後からようやく学術的な研究が行えるようになり、

 阿部軍治『シベリア強制抑留の実態』(彩流社、平成17年10月)

によって、最新の成果がまとめられていることを知りました。

近くの本屋ではもう見当たらなかったのですが、
その後の成果も踏まえつつ、一般向けに書き下ろした
新刊が並んでいたので、購入しました。

 阿部軍治『慟哭のシベリア抑留』(彩流社、平成22年9月)

このテーマも、
日本国民の一人として、
勉強を続けていきたいと思っています。


第八章では、
昭和前期(1925~45年)の日本が、
社会主義思想・共産主義思想に汚染されていた事実を、
出版活動の側面から分析しています。

 ロシア革命の翌年、
 大正7年(1918)以降の「マルクス経済学」称賛、

 世界恐慌開始の翌年
 昭和5年(1930)以降の「ソ連の計画経済」称賛、

の2つの大きな流れとともに、

大正14年(1925)に、ソ連と国交を回復したことによって、

ソ連は、日本に
大使館という格好の情報謀略工作基地を得、

実際これ以降、
社会主義・共産主義の翻訳書が
爆発的に大量出版されている事実には、
これほどとは思わなかったので愕然としました。

この事実は、
同じく1925年にできた治安維持法が、
社会主義思想・共産主義思想の流入を阻止する上で、
ほとんど役に立っておらず、

社会主義・共産主義の脅威から、
日本国民の自由と権利を擁護する上で、

治安維持法は、
多くの欠陥をかかえた法律であったことを指摘しています。

米国では今も、日本の治安維持法より厳しい
 『共産主義者取締法』が存在し、十全に執行されている。

 英国でもドイツでも共産党は非合法である。」(本書、314頁) 

との指摘はとても勉強になりました。


内容的に少し難しいと思いますが、

『近衛文麿とルーズヴェルト―大東亜戦争の真実』
(PHP研究所、平成7年8月)


と並んで、必読の1冊です。

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