2012年2月28日火曜日
【読了】岡崎久彦 『幣原喜重郎とその時代』
岡崎久彦『幣原喜重郎とその時代』
(PHP文庫、平成15年7月)
岡崎久彦氏の日本近代外交史5部作、
第3部を読み終えました。
本書で扱われているのは、
明治44年(1911)の中国の辛亥革命から、
昭和7年(1932)の満州事変に至る、
20年間の歴史です。
主に大正時代から、
昭和前期に陸軍のタガが外れて
満州事変に至るまでの歴史を、
幣原喜重郎の外交を基軸に、
背景にもよく気を配りつつ、
バランスよい叙述が行われています。
戦後はじめて達成されたかに見える
デモクラシーのほぼすべての要素が、
大正デモクラシーにおいて
すでに達成されていたことは、
こうした丁寧な叙述によってこそ、
納得できるものだと思います。
中庸な歴史を描くことは困難な時代について、
稀にみるバランスの良い叙述が実現しています。
それは各章ごとに、
大学の先生方に意見をうかがい、
穏当なものに記述を修正していくという、
なかなか誰にもできることではない、
知力、忍耐力の賜物だと思いました。
ただそれだけに、
今の学会で研究されていないこと、
謎のままで残されていることについては、
そのままで残されておりました。
大正デモクラシーを高く評価すればするほど、
その延長線上に、どうして軍部の独走があり得たのか、
その説明が十分ではないように思われました。
また、
英米の自由主義思想と対峙する
ソ連の共産主義思想、全体主義思想に対する
立場はさほど批判的でなく、
キッシンジャーの著書『外交』を高く評価する所からも、
思想的には、若干脇が甘いように思われました。
しかしそうしたスタンスは、
まさに幣原喜重郎のそれとも似ております。
英米の政治的立場はよく理解しながら、
思想的になぜ自由主義でなければならないのか、
その大いなる価値の部分を、
国民に向けて語ろうとはしなかった。
一外交官にその責任を問うのは酷なのでしょうか。
ここから先の歴史は、
できれば直視したくない失敗の連続ですが、
再び正道から大きく踏み外そうとしている
最近の外交を見て、より一層、
歴史に学ぶ必要性を感じるのでした。
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