ロバート・ルイス・スティーヴンソン(1850.11-1894.12)の
歴史冒険小説『さらわれたデービッド』を読みました。
スティーヴンソン35歳の時(1886.7)に出版された作品です。
ロバート・ルイス・スティーヴンソン著
坂井晴彦(さかいはるひこ)訳
『さらわれたデービッド』
(福音館書店、昭和47年4月)
本書は、
[グレートブリテン・アイルランド国王]ジョージ2世(在位1727-1760)の治世下、
1746年にスコットランドで起きた
「ジャコバイトによるグレートブリテン王国に対する最後の組織的抵抗」
であったカロデンの戦いを踏まえつつ、
それから5年後(1751年)の、
スコットランドを舞台に繰り広げられた歴史冒険小説です。
歴史的な背景を知らなくても
十分に楽しめるように書かれていますが、
気になったので少しだけ調べてみました。
***
ジャコバイトとは、
1688年の名誉革命でフランスに追放された
ステュアート朝の
[イングランド・アイルランド王]ジェームズ2世
兼[スコットランド王]ジェームズ7世
とその直系男子を、
正統な国王としてその復位を支持する勢力です。
ジャコバイトの王位請求者は、
ジェームズ2世/7世
ジェームズ3世/8世(ジェームズ2世/7世の次男)
チャールズ3世(ジェームズ3世/8世の長男)
ヘンリー9世/ヘンリー(ジェームズ3世/8世の次男)
………
と続いて行きます。
復位に向けた大きな動きとして、
1715年の反乱 と1745年の反乱
の二つの武力蜂起があったものの失敗に終わりました。
1745年の反乱の最後に位置するのが
カロデンの戦い(1746)であり、
この戦いで、
ジェームズ3世/8世が敗北したことによって、
ジャコバイトの王位請求者が、
国王に復位する可能性は完全に絶たれたそうです。
ステュアート朝が、
スコットランドを起源としていたこともあって、
ジャコバイトのおもな支持基盤は、スコットランドにありました。
スティーヴンソンはスコットランド生まれなので、
この小説もどちらかと言えば、
ジャコバイトを擁護する立場から描かれています。
ただしスティーヴソンが生まれたのは、
ジャコバイトの敗北が決定的になって百年後のことなので、
それほど熱烈に、
ジャコバイトを支持する立場が、
表明されているわけではありませんでした。
***
さて、名誉革命(1688)から、
1745年の反乱でジャコバイトの動きが一段落するまでの、
国王の正統な継承の流れも確認しておきましょう。
名誉革命(1688)の結果、
ジェームズ2世/7世がフランスに亡命し、
ジェームズ2世/7世の長女 メアリー2世と、
彼女の夫のオランダ総督 ウィリアム3世が、
[イングランド・スコットランド・アイルランド女王]メアリー2世と、
[イングランド・スコットランド・アイルランド王]ウィリアム3世として、
夫婦で共同統治を行いました。
1694年にメアリー2世(在位:1689-1694)、
1702年にウィリアム3世(在位:1689-1702)が亡くなると、
ジェームズ2世/7世の次女 アンが、
[イングランド・スコットランド・アイルランド女王]アンとして
即位しました(在位:1702-1707)。
1707年にイングランドとスコットランドが合同し、
グレートブリテン王国が成立したため、
その後は
[グレートブリテン・アイルランド女王]アンとして
統治しました(在位:1707-1714)。
1714年にアン女王が亡くなると、
跡継ぎがいなかったことから ステュアート朝 は途絶え、
ハノーファー選帝侯ゲオルク・ルートヴィヒが、
[グレートブリテン・アイルランド国王]ジョージ1世として即位し、
ハノーヴァー朝 がはじまりました(在位 1714-1727)。
1727年にジョージ1世が亡くなると、彼の息子が
[グレートブリテン・アイルランド国王]ジョージ2世、
(兼[ハノーファー選帝侯]ゲオルク2世アウグスト)として
即位しました(在位 1727-1760)。
こうした一連の流れとは別に、
反政府的な立場からジャコバイトの動きがあったわけですが、
ジョージ2世の治世下、
1745年の反乱における
カロデンの戦い(1746)において、
ジャコバイトの敗北が決定的になりました。
***
このあたりの歴史は詳しくないので、
中途半端な勉強ではまとめるのが難しいです。
今は取り敢えずこれくらいにして、
いずれまた整理しなおします。
物語としては別に、
このような歴史的な流れを知らなくても、
十分に楽しめるようになっていますが、
歴史的な背景を調べてみると、
より味わいが増してくるようにも思われます。
『宝島』と比べると若干の取っ付きにくさはありますが、
繰り返し読むに足る魅力にあふれた作品だと思いました。
***
翻訳は、現役で手に入るのは、
坂井晴彦(さかいはるひこ)氏のが唯一なはずですが、
よくこなれた日本語で、とても読みやすかったです。
かつて、
大場正史 訳
『誘拐されて』
(角川文庫、昭和28年)
も出ていたようですが、古書で高値のため未見です。
なおスティーブンソンには、
1745年の反乱 を題材とした
『さらわれたデービッド』のほかにも、
1715年の反乱 を題材とした
『バラントレーの若殿』という作品もあるそうなので、
近々読んでみたいと思っています。
海保眞夫訳
『バラントレーの若殿』
(岩波文庫、平成8年4月)
※Wikipedia の「ジャコバイト」「ウィリアマイト戦争」「カロデンの戦い」「ジャコバイト王位継承者の一覧」「ジェームズ・フランシス・エドワード・ステュアート」「チャールズ・エドワード・ステュアート」を参照。
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