子供のときに、
良書に親しむことがいかに大切なことか、
美しい日本語でわかりやすく語りかけてくれるのは、
美智子皇后陛下の講演録
『橋をかける 子供時代の読書の思い出』
(文春文庫、平成21年4月。初出は平成10年11月)
です。
同書には、
平成10年にインドのニューデリーで開催された
国際児童図書評議会(IBBY)の第26回世界大会おける基調講演と、
平成14年にスイスのバーゼル市で開催された
IBBY50周年記念大会の開会式におけるお祝いの挨拶が収録されています。
私が特に感銘を受けているのは、次の一文です。
(講演録「橋をかける 子供時代の読書の思い出」36~38頁より)
「今振り返って、私にとり、
子供時代の読書とは何だったのでしょう。
何よりも、
それは私に楽しみを与えてくれました。
そして、その後に来る、
青年期の読書のための基礎を作ってくれました。
それはある時には私に根っこを与え、
ある時には翼をくれました。
この根っこと翼は、
私が外に、内に、橋をかけ、
自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに、
大きな助けとなってくれました。
読書は私に、悲しみや喜びにつき、
思い巡らす機会を与えてくれました。
本の中には、さまざまな悲しみが描かれており、
私が、自分以外の人がどれほどに深くものを感じ、
どれだけ多く傷ついているかを気づかされたのは、
本を読むことによってでした。
自分とは比較にならぬ多くの苦しみ、
悲しみを経ている子供達の存在を思いますと、
私は、自分の恵まれ、保護されていた子供時代に、
なお悲しみはあったと言うことを控えるべきかもしれません。
しかしどのような生にも悲しみはあり、
一人一人の子供の涙には、それなりの重さがあります。
私が、自分の小さな悲しみの中で、
本の中に喜びを見出せたことは恩恵でした。
本の中で人生の悲しみを知ることは、
自分の人生に幾ばくかの厚みを加え、
他者への思いを深めますが、本の中で、
過去現在の作家の創作の源となった喜びに触れることは、
読む者に生きる喜びを与え、
失意の時に生きようとする希望を取り戻させ、
再び飛翔する翼をととのえさせます。
悲しみの多いこの世を子供が生き続けるためには、
悲しみに耐える心が養われると共に、
喜びを敏感に感じとる心、又、
喜びに向かって伸びようとする心が養われることが大切だと思います。
そして最後にもう一つ、
本への感謝をこめてつけ加えます。
読書は、人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。
私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。
人と人との関係においても。国と国との関係においても。」
良書に親しむことは、
大人にとってもたいへん有意義なことだと思いますが、
とくに子供時代に良書に親しむことの大切さについて、
誰にでもわかる言葉で語りかけられています。
人間にとって、
まず経験が第一なのは言うまでもありませんが、
一個人が経験できる事柄はごく限られた範囲に過ぎません。
経験したことがすべてだ、と思ってしまうと、
個人の思い上がりをまねきやすくなるでしょう。
個人の経験の足りないところを補うためにも、
読書の果たす役割はたいへん大きいと思います。
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